ぼくらのおうち｡4～Mｙ sweet home～/気象ﾊﾟﾛﾃﾞｨ (ページ28)

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58.欅のひとりごと｡ページ28

皆が深い眠りに落ちた頃になっても

開け放たれた窓から、私に深く静かな眼差しを向け

一人、酒を楽しむ者がおりました｡

……そう｡

烏天狗の末裔、迦楼羅天の化身です｡

背に生えた漆黒の翼で細い体を包み

窓枠にもたれかかったまま

彼は盃に満たされた酒を愛で、楽しんでおります｡

彼は暫く風になびく、私の緑を鳶色の瞳に映しておりましたが

部屋に広げられた２枚の掛け軸に視線を落しました｡

同じように酒で満たされた盃がそこには配され

絵に描かれた者達も人が生み出した美酒を

楽しんでいるかのようです｡

烏天狗は盃の酒を飲み干すと、

傷みの酷い

まだ彼の手によって、なんら修繕が施されていない絵に語りかけます｡

そこに描かれている者が人であることと

藍の顔料が少し認められるだけの随分古い掛け軸｡

私の目にそうとしか映らないその絵は

烏天狗の瞳にどう映っているのでしょうか？

｢あの女、随分寂しそうに笑ってた｡
アイツ、アンタの女じゃねぇのか？

だとしたら相当悪い男だな｡

あんな寂しそうな笑い方させて
生き霊になるほどの妄執を、女に抱かせるなんて……

俺なら大事な奴に、そんな想いは抱かせねぇ｣

天の頂きから随分傾いた月を

静かな湖面のような瞳に映すと

彼は誰に語りかけるでもなく

一人、独白を零しました……｡

｢幸せになれよ｡
生きるべきアンタの世界で｣

風に千切れた深い声が、

元の世に戻った者に届けられたのか、私には分かりません｡

懸命に己が宿命にもがく者に届いたのか、

ただの欅に過ぎぬ私には、見当もつきません……。

この世の理すら照らし出しているかのような

物言わぬ冴えた月だけが

烏天狗の独白を、聞いていたのでございます………

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Episode3『巡恋歌・終わり』