ぼくらのおうち｡4～Mｙ sweet home～/気象ﾊﾟﾛﾃﾞｨ (ページ25)

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55.近くて遠かったアナタ1/N ページ25

｢……智、顔見せてよ｣

立てた膝に顔埋めたまま、智は小さく首を横に振って

顔を上げてくれようとはしない｡

いつもこの人はふにゃふにゃ笑ってて

ある意味、余裕な顔してて｡

何処か捉えどころのない

何考えてるのかイマイチ分からない人だった｡

さっきまでの仏頂面は不機嫌とかそういうことじゃなくて

初めて襲った感覚に

この人自身どうしていいのか、本当に分からなかったんだ｡

背中を擦ると、ピクンと肩が揺れた｡

オレにとってこの人は

じいちゃんが死んでから、一番近くにいてくれて、誰よりも頼れる人だった｡

だから今まで気付かなかったんだ……

守る為にオレの盾になってくれてたこの人の背は

こんなにも小さくて

こんなにも、薄っぺらだったんだ……

｢……ゴメン、ゴメンね｡
智、心配させて本当にゴメン｣

なんでも器用にこなせる人だ｡

強くて逞しい人だとも思う｡

この人の放つ畏怖に、殆どの物の怪が恐れをなし跪いてきた筈だ｡

出来ない事なんてなかったんだろう｡

守れないものなんてなかったんだろう｡

だからなんでしょ？

こんなふうに初めて体験した恐怖に、

子供みたいに戸惑って、背中震わせて怯えてるのは｡

｢オレ、今度はちゃんと言うから｡
また怖い目に遭ったら、一番に智に相談するから｡
そしたら…
オレのこと守ってくれる？｣

｢当り前だろ｡
ニノは俺んだもん……｣

顔を上げた智が、こつんと肩に頭を預けてくる｡

なんかこうなると、智は本当に幼い子供のようで

可笑しくて、思わず吹き出してしまう｡

｢……？
なに？
なんで笑ってんの？｣

｢別にぃ～｣

……分かった｡

今回のことで、智というヤツのことが

今までよりちょっとだけ見えた気がする｡

コイツ、意外に子供なのかもしれない｡

長い年数を生き抜いて長けた面も多いけど

ぽっかりと何かが抜け落ちてたみたいに

幼稚でだだっ子みたいなとこがある｡

｢ふふっ｣

小さな子供をあやすように

薄い背中を優しく叩きながら

困ったヤツだなんてちょっと呆れつつも

今まで見たことない顔を覗かせたコイツに

オレはなんのかんので喜んでいる｡