08.贔屓の御客様/N ページ9
｢あー、暇ぁ〜｣
学校から帰ってきて、ポトフをカレーに作り替えた後
智も相葉さんもまだ帰って来るまでに時間があったから
オレは課題を手に隣にある古書店の鍵を開けた｡
この店は生前じいちゃんが営んでた店｡
店っていってもほとんど客なんてくることのない、知る人ぞ知る的な超レトロな店｡
｢ふぅ〜｣
番台に座って、数学の課題を開いてから店の棚にずらりと置かれた古書を眺めた｡
｢それにしても、じいちゃんよく集めたなぁ……｣
店に置かれている本は、じいちゃんが若い頃、趣味で収集した本ばかりだ｡
本っていっても、江戸時代とかそれ以前の時代の古いものばかりで
昔から語られてきた民話を纏めたものだったり、
時の権力者が編纂させた歴史書とは別に、民間で纏められた史書が殆どだ｡
オレにはよく分かんないけど、いわゆる教科書なんかに出てくるような史書は、
時の権力者の命令で自分達に都合のいいように書かれている部分も多く、
民間で纏められた、あまり世に出ていない史書の方が
かえって歴史的な真実を描いてたりするから、資料的価値も高いんだって｡
だからここにくるお客さんは、大学の教授だったり、歴史を研究してる人だったり、いわゆる専門家が殆どだ｡
『それなり』の人が、それなりにお金を持ってきてくれるから、一冊売れるといい金になんの｡
欲しがってた歴史書が見つかったって、昨日大学に電話しといたから｡
そろそろ常連さんのあの人が来る筈なんだけど……｡
ガラガラガラ…と、古い木製の引き戸を開ける音がして
月明かりがよく似合いそうな綺麗な男の人が、秀麗な笑みを浮かべて番台に座るオレを見つめる｡
｢ニノ、助かったよ｡
連絡ありがとう｡
面倒かけてすまなかったね｡｣
｢いいえ、こっちこそ毎度ご贔屓に｡
お買い上げありがとうございます♪
翔さんはうちの大事な常連さんだもん｡
それくらいさせて貰って当然だよ｡｣
翔さんはある大学で日本史を教えている大学教授だ。
古書店の常連さんで、オレが知る唯一ちゃんとした『大人』
翔さんはもう一度ニッコリ笑うと、後ろを振り返った｡
｢ホラ、潤!
お前何やってんだよ｡
中に入ってちゃんとニノに挨拶して｡
お前がニノに会いたいって言ったんだろ？｣
｢はっ？潤…って？
……誰？｣
翔さんに促されて店の中に入ってきたのは
オレと同じ年くらいの年齢の、ふてぶてしい態度の男だった｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
