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その屋敷は広大な敷地にあった｡
美しく整備された庭園がある、何人もの女官や仕様人を抱えた立派な屋敷｡
初音は屋敷の主人、左大臣の十二番目の娘で一番の奥間で暮らしていた｡
｢……もう、遅いわよ、あんた達｡
今日は新月｡
私の屋敷にあなた達が来なきゃいけない日でしょ？｣
不機嫌そうにぷぅっと頬を膨らめた、年齢の割に体の小さな華奢な少女｡
それが初音だ｡
初音は齢13の女の子｡
彼女は強い霊感を持ち、本物の陰陽師のような術を使う事が出来た｡
おれが彼女のまいた餌につられた所為で
智君とおれは彼女が使う『縛』という力で拘束されてしまい
彼女の望むがまま、降魔の術で呼び出されていた。
何を命じられるわけでもない｡
新月の夜になると彼女に呼び出され
夜が明けるまで、初音のおしゃべりに付き合わされる｡
街の様子やおれ達物の怪の話、
初音はそんなモノを喜んだ｡
そしてもう一つ、初音は智君に必ず次の逢瀬にあるものを強請った｡
｢仕方ないじゃん｡
お前の親父さんが雇った陰陽師に捕まってたんだもん｡
………ホラ、お前が見たがってたほおずき｡｣
初音は季節の花や木の実を、必ず智君に持ってくるように頼んだ｡
｢まぁ…、なんて愛狂しいのかしら｡｣
智君から橙色に色づいたほおずきを受け取ると
初音は青白い頬を薄紅に染めて
それはそれは嬉しそうな顔をする｡
｢もういいだろ｡
毎回毎回こうして降魔の術で呼び出されるたびに、お前の頼み聞いてやってるじゃん｡
だからそろそろ俺達のこと解放してくれない？｣
｢いやよ!!
まだまだあなた達に施した『縛』を解いてやる気なんてないわ!!
……いい？
私の呼び出しを無視したら、『縛』を施されたあなた達は消滅しちゃうんだから!!｣
勝気な顔に優越の笑みが浮かぶ｡
忌々しそうに舌打ちした智君が、
｢お前のような死に損いの顔なんて、いい加減見るのもうんざりだ｡｣
冷たく言い放った｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
