Trick ページ10
※死ネタ注意
.
何故か今、私は彼の
今の彼は、先日の交通事故により植物状態になっている。
病院の先生は、「目を覚ましてからじゃないと確認できないが、彼は記憶喪失の可能性が高い」と言っていた。
それから、私は彼との日々を懸命に思い出した。
小さい頃から一緒に過ごしていたから、私の生活には彼が住み着いてしまった。
勿論、心にも。
彼が私を忘れても、私は彼を忘れてはいけない。
走馬灯のように、彼と過ごした時間が駆け巡る。
時系列じゃなく、不規則に。
想いを馳せていたら、いつの間にか階段の踊り場に来ていた。
そこには、絶賛植物状態中の彼がいた。
彼は呆然と虚空を見つめている。
そこには、私には見えない何かがあるのだろうか。
辺りを見回す。
左手には昇り階段。右手には降り階段。
それぞれ、最初の段に"HEAVEN"と"HELL"と書かれている。
HEAVENは黄色の明朝体で、そこから先は花の模様が描かれている。
HELLはホラー映画なんかに出て来そうな自体で、下からはマグマのような、焼けるような熱を感じる。
彼が見つめる虚空に、一人の人が姿を現す。
「…おや？今日は一人多いのかね？」
其奴は、私を見て言った。
「……まあよかろう。先程、お主の判決が出た。」
彼はまだ呆然としている。此奴の話を聞いているのかはよく分からない。
私は、二人の顔を交互に見ながら話を聞いていた。
「…ゴホン。えー、ではお主の
そう言って、右手を伸ばす。
奴が指す方向はつまり、左側。昇り階段だ。
彼はそれを受け入れたように、階段に足を掛けようとする。
……ちょっとまって。"HEAVEN"って天国だよね？え？死ぬってこと？
「…ま、まって！！！」
彼の腕を掴む。
振り向いた彼は、今し方私の存在に気づいたと言わんばかりの表情をしている。
しかし、彼の目は正気を失ったように虚ろだった。
「やめろ、……放せっ！」
「いや！！死んじゃいや！！！」
必死に彼にしがみつき、彼が
「……っ！しつこいんだよ！！！」
ﾄﾞﾝｯ
こもった音がした。
瞬間、私はバランスを崩し、地から足が浮いた。
私はこのまま、
虚空に佇む閻魔が、ニヤリと気味悪く嗤った。
棘 『Trick』
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作者名：名奈 | 作成日時：2021年1月18日 17時
