冬眠 ページ8
※『枯葉』の彼女視点です。
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「……残念ながら、Aさんの病気は、現在の医療技術では治せないものです。もってあと、3年かと。」
私は、この現実を受け入れるのに少々時間を要した。
隣で声を上げてボロボロ泣く母は、ごめんね、ごめんね…、と、私に謝ってくる。
──そっか、私、あと3年もしないで死ぬんだ。
その一言は、私の中にすっと入ってきた。
「…お母さん、私は大丈夫だから。それより、私あのカフェの新作食べたいんだよね〜。一緒に行こ！」
突きつけられた以上、現実を受け止めるしか術はない。
いつ死ぬかわかったなら、残りの人生は悔いなく、明るく生きよう。
色のない世界で、そう思った。
病気であることが分かってからの日々はすぐ流れた。
無理に笑顔を振り撒くのは大変だけど、周りの人に心配をかけたくない。
その一心で、必死に明るい"A"を演じた。
高校生になった私は、隣の席になった彼に一目惚れした。
見た目はもちろんだが、中身まで素敵な人だった。
彼が好きだと気づいた時、私の世界は一気に色づいた。
彼の周りには、赤や黄の、燃えるような、穏やかな雰囲気が舞っていた。
「俺と、付き合って下さい。」
そう言われた時、嬉しくて嬉しくて、涙が一筋頬を伝った。
これから彼と送る未来に、想いを馳せた。
それからの日々は、本当にあっという間だった。
春は一緒に桜を見て、夏は海ではしゃいだ。
秋は彼の誕生日を祝い、冬はイルミネーションの中、手を繋いで歩いた。
楽しい時間を過ごす中でも、病状は着実に悪化していた。
「うーん………。これは本当にまずい状態ですね。入院したらもう少し良くなると思うのですが、どうでしょう。」
「入院って、どれくらいかかるんですか。」
「最低でも、1ヶ月はかかります。病状がある程度回復してから退院すれば、もっと長く生きられるかと。」
"1ヶ月"
私には長すぎる時間だった。
1ヶ月も入院したら、来月の彼の誕生日に逢えなくなってしまうから。
「…いえ、入院はしません。」
「……そうですか。では、もう少し強い薬を出しておきますね。」
「ありがとうございます。」
私が通う病院の先生は、何時でも私の気持ちを尊重してくれる、いい先生だ。
続
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作者名：名奈 | 作成日時：2021年1月18日 17時
