自然 ページ50
僕が引っ越してきた家の向かいに、同い年の女の子が住んでいた。
「初めまして。昨日引っ越してきた●●です。」
お母さんが、向かいの家の人に挨拶する。
「これ、少しですけど…」
そう言って、準備してた手土産を渡す。
「すみませんわざわざ。」
「いえいえ。ここに住むのは初めてで、分からないことだらけなので色々教えて下さると嬉しいのですが…」
「ああ、いいですよ。何でも聞いて下さいね。」
向かいの家のお母さんに隠れてる女の子を、僕はじっと見ていた。
よく、家が隣で一緒に遊んだりって話があると思うが、僕の場合そんなことはほぼなかった。
家を出る時にあの子がいたら軽く挨拶するくらいで、それ以上は何もなかった。
その後年月を重ね、どんどん進級していった高校生の時。
「好きです。付き合って下さい。」
ストレートな告白に困惑しつつも許可し、俺らは近所の人から恋人になった。
それからの日々は楽しすぎて、あっという間に時間が過ぎていった。
今まで知らなかったAのことを沢山知った。
色んな場所にデートに行った。
学校帰りに寄り道した。
様々な機種でプリを撮った。
そんな青春は、儚く散った。
「なんでこんなことするの！？」
「なんでって、俺はただ、Aが心配で」
「大丈夫って言ってるじゃん！ちゃんと時間守ってるのに、なんでもっと厳しくしようとするの？意味分かんない！！」
「……分かった。じゃあ、俺ら別れよ。」
「…ｯ、言われなくてもそうするよ！！」
家を飛び出した彼女に、本当に俺らの関係は終わったのだと気づいた。
それからは、Aと顔を合わせるのが辛かった。
なんせ同じクラスだったため、意識しなくても視界に入るところに居るのだ。
チラッと見ると、Aは楽しそうに友達と喋っている。
向こうも俺が気になるのか、度々目が合っては、どちらからともなく逸らすのだった。
そんな日々も過ぎてしまえばどうってことなく、俺らは各々の進路に進んだ。
俺はシステム開発の道に。Aは薬学の道に。
振り返ってはいけない。楽しかったあの日々が、俺の胸を締め付けるから。
Aは、俺の方を振り向いてくれてるだろうか。
大学とは何とも暇なもので、時間を潰す方法を模索する。電子系の本でも読もうかな。
本を開き、ページを進める。
集中できなかったからすぐに閉じ、他にやることがないか回りを見る。
洗濯物が溜まっているではないか。
続
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：名奈 | 作成日時：2021年1月18日 17時
