待ち人は ページ45
「ではここで、Aちゃんから残念なお知らせがあります。みんなよーく聞いてね。」
先程までにこやかだった担任の顔が少し曇ったのを、俺は見逃さなかった。
「明日で転校して、この学校からいなくなります。みんなと別れるのはさみしいけど、これからも元気に過ごしてください。」
「とっても急なんだけど、Aちゃんが
1時間目の準備をしましょうという声で、クラスのほとんどの女子が彼女の元を訪ね、どこに転校するのとか、新しい住所教えてとか聞いている。
俺がそんなことできる訳もなく、その群れをぼんやり眺めていた。
今日という日が終わろうとしている。
正確には今日はまだ続くが、学校が終わろうとしているのだ。小学生の俺らからしたら、それで今日の終わりなのだ。
今日はずっとうわの空だったように思う。給食中に口に運んでた温食はこぼすし、算数の分からない問題を当てられるしで災難だった。いつもなら避けられるボールも避けられず、顔面にヒットした。
ぐるっと見回した教室には俺とAしかいなかった。いつの間にか、みんな帰ってしまっていた。
彼女も帰る支度ができたのか、ピンクのランドセルを背負って教室を出ようとする。
「ねえ」
咄嗟に動いた口に、俺の想いは止まらなかった。
「今日、一緒に帰らない？」
そう言った俺に驚いた様子ではあったが、いいよと了承してくれた。
「ほんとに明日転校するの？」
「当たり前じゃん。なんで嘘つかなきゃないの笑」
Aとはあまり話したことがなかったから、少々気まずく感じる。
少しずつ、俺も大人に近づいているということなのだろう。
「あ、そっちなんだ。」
分岐点は突然訪れた。
「じゃあね。元気でね。」
そう残して去ろうとする後ろ姿に、俺の決心がついた。
「あの！」
彼女がこちらを振り向く。
「僕、君のことが好き。急に言われても困るだろうけど、今言わなきゃ後悔すると思って…。」
「……そうだったんだね。ありがとう。でも」
「返事は今じゃなくていいから！僕、ずっとここで待ってるから。大人になって、こっちに帰ってくる時、僕に気持ちがあったら、またここに来て欲しい。」
「…わかった。」
そこにあった大きな木を見上げる彼女と、俺は小さな約束をした。
続
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作者名：名奈 | 作成日時：2021年1月18日 17時
