妄想最盛期 (ページ2)

今日:32 hit、昨日:4 hit、合計:2,228 hit

憂色ページ2

青白い月の下、女が一人歌う。
女の肌は月よりも白く、瞳にはうっすらと涙を浮かべ、紅く熟れた唇は、雪を溶かす程燃える椿の様。
途切れ途切れに聞こえる声は、か細くも誰の耳にも届くもので、澄んだ歌声は聞く人を惹きつける。

そんな中、女に魅了された男が一人。
女の儚さと美しさに目も耳も心も奪われ、夢中になりながら木陰からそっと覗く。

そんな男の気配に気づいたように、女は振り返る。
傷みを知らない、腰辺りまで伸びた艶やかな黒髪は、夜風にサラサラと靡く。
裾を翻した女に、男はより一層魅了される。

息を止めること数秒。
柔らかくも、憂いを帯びた表情で微笑んだ女は、その場から姿を消そうとする。

「あっ、あの…！」

男の声が、女に届くことはなかった。

✩⋆*॰¨̮⋆｡˚¨̮☪︎⋆｡˚✩✩⋆*॰¨̮⋆｡˚¨̮☪︎⋆｡˚✩

それから数ヶ月経った。

今尚、男の心の中にはあの日の女が佇んでいる。
ふと通りで目にしたお店に、よく分からないが、どうしても引きつけられた。

"足を運べ"

そう訴えてきた。

吸い込まれるように店内に入ると

「いらっしゃいませ」

あの日の女が微笑んだ。

月に祈る『憂色』