シャムロックの花。第四輪

百四十六つ葉 ページ9

「ですが、それでも九体のワイバーン相手に──」
「くるぞ！」

武装兵達の声に二人は空を見上げた。

宙を漂うワイバーンが九体、こちらを見据えていた。

「立香様、少し輝石や魔石、秘石をお借りいたしますね」

室内から出ていく際に立香の持ち物から少量の魔術的素材を拝借していたエウェルに、いつの間に……と呟く立香に対して申し訳なさそうな顔をするがワイバーンからは決して目を逸らしてはいなかった。

そして、手元が見えるようにエウェルはワイバーンへと向き直る。

東洋と西洋で大きく特徴や性質の違いをみせるが、ワイバーンであれば西洋の竜。

西洋竜というものは元来、宝石や輝くもの等、高価であり価値があるものに目がない。

ましてや魔力の籠った宝石であるのなら惹かれないはずがないのだ。

九体全員の目線がエウェルに固定される。

「では皆様方、少しの間失礼致しますね」

立香達四人に対して一礼をしたエウェルは一瞬でワイバーンの下を突っ切って走っていった。

後を追うワイバーン九体。

「アサシンには怪我をさせないように俺が立ち回るから、心配はしなくてもいい」

そう一言立香に残したジークフリートも、続くようにエウェルとワイバーン九体を追いかけて行った。

窓や開いたドアからはもう二人の姿もワイバーンの姿も見えない。

「……お二人で大丈夫でしょうか」
「Aもジークフリートも、大丈夫って言っていたから大じょ」

ぶ、と立香は続けるはずだった。

だがしかし、唐突に叫んだナイチンゲールの悲鳴によって口を閉ざさずにはいられなかったのである。

「ど、どうしたというのだ看護師よ。まさか余の傷が？」
「そちらもかなり深刻ですが違います」

恐る恐る尋ねたラーマの問いをばっさりと切って否定したナイチンゲールは嘆かわしいと言わんばかり言葉を紡ぐ。

「つい彼の治療に専念し過ぎて失念しておりました。あの患者もこの患者に比べたら雲泥の差になりますが、それでも十分な重傷患者です。今すぐに連れ戻してきてください」
「え」
「早く！ 動くだけにも飽き足らず、戦闘なんてもっての他！ 縛り付けて安静にさせますので、私の目の前に引っ張ってでも戻してきてください！」

今更ながらの発言に立香もマシュも口を半開きにしてナイチンゲールを見詰めていた。

ジェロニモだけが予想していたのか、苦笑いを浮かべてたが。

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