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八十二つ葉 ページ37

Aが去った部屋で、立香は考えていた。

”彼女“は自身(クー・フーリン)のことを”英霊“だと言ったのだ。

「先輩……」
「Aがそう言うんだ。Aの言葉を俺は信じるよ」

隣で困惑した様子の後輩に立香はそう言う。

先程までAが座っていた椅子は綺麗に元の位置にA自身が戻していた。

その椅子を見ながら立香は、漠然とだがAが本当のことを言っていないと感じている。

嘘は吐いていない

だが、本当のことも話していない。

証拠もない、確証もない。

ただ、立香は第六感という感覚でそう思ったのだ。

「フォウ」
「フォウもAを信じような?」
「フォーウ」

小首を傾げる白い獣に、くすりと笑った立香はそのふわふわな毛並を撫でると立ち上がる。

「マシュ、英霊召喚しよう」
「……先輩が気にされないのならわたしも気にしません。では、ドクターとダヴィンチちゃんの元へ向かいましょう」

倣うようにマシュもフォウを抱え上げて立ち上がったのだが、どういう訳かマシュの腕の中からフォウが逃げ出す。

ふわりとベッドの上に着地したフォウは、振り返るとマシュと立香を見上げて一声鳴いた。

「どうやらフォウさんは先輩のお部屋でお待ちになるそうです」
「わかった。ドアは自動で開くようにしておくから、出て行きたい時に出て行っていいからな?」
「フォウ!」

立香ちマシュに頭を撫でられたフォウは、部屋を出て行く二人を見送る。

扉が完全に閉じ、二人の背中が見えなくなってからフォウは動き出した。

ベッドから下りると、綺麗に磨かれている床をその小さい足で歩み進む。

時折臭いを嗅ぐように鼻をくんくんと動かし、何かを探すように立香の部屋を歩き回るフォウはとうとう見つけたらしい。

Aが先程まで座っていた椅子の上に飛び乗り。

「フォウ、フォウフォウフォーウ」

その柔らかな肉球がある前足で、椅子の表面を撫ぜた。

いや撫ぜた、というより何かを消すような動作といった方がいいかもしれない。

その何かが完全に消え失せるまで前足で撫で続けたフォウは、それが消えると軽く毛繕いをしたのちに椅子から降りて立香の部屋を後にした。

いったい椅子に何があったのか。

そして何故謎の生き物であるフォウが気付いたのか。

真相は不明である。

ただ確かなことは、Aが座っていた椅子にその何かがあり、フォウがそれを消したということだけ。

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作者名:翔べないペンギン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/  
作成日時:2020年2月28日 21時

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