【鬼灯の冷徹】地獄照らすは業火の女神

龍虎の二重奏 ページ27

阿鼻での業務を終えたAが直通エレベーターで地獄門まで帰ってきて最初に目にしたのは＿＿

「ソイヤッ！！」
「ごへぇ！！」

夫の傷害事件現場だった。ゴキャッという音とともに鬼灯の拳が白澤の顔面にめり込んでいる。
いつもいつもよく飽きないなと呆れつつも無視するわけにもいかず、Aは溜め息を吐いた。

「何の挨拶もなくそれかコノヤロウ！」
「どうせ貴方と会ったら最後こうなるんですから先に一発かましとこうと思って…。」
「80年代のヤンキーか！」
『嫌いならわざわざ絡まなければいいでしょうが。部下達もドン引いてるよ。』

桃太郎とシロに「ごめんね」と声をかけながら問題の中心へと歩み寄る。

「Aさん、おかえりなさい。」
「Aちゃん、久しぶりー！相変わらず可愛いなぁ！」
『はいただいまありがとう。亡者も通る地獄の玄関口で、いい大人があんまり騒がないでくださいね。』
「すみません、こいつの顔を見るとどうしても虫酸が走りまして。」
「僕もお前の顔なんか見たくもねぇよ！…ああ、ごめんねAちゃん。もうこいつの存在自体が地雷というかなんというか…。」
『"顔を見るだけで自分を抑えきれない"って、まるで恋みたいだね。』
「「その喩えだけは断固否定する。」」

シンクロしたのが気にくわないのか、またも睨み合う二人。もう本当は仲良しなんじゃないかと疑うレベルだ。

「ほんとムカつく奴！Aちゃんだって取られちゃったしさ。」
「Aさんは元々私のです。」
「僕がAちゃんと出会った頃はまだ付き合ってもいなかっただろうが！」
『ちょっとそんな話にまで飛び火するの？』
「え、白澤様とAさんって何かあったんですか？」

それまで静観をきめこんでいた桃太郎が思わず口を挟む……が、それへの返答は恐ろしい鬼神のひと睨みだった。

「何もありませんよ。ただこの淫獣がいつものように口説いて、いつものようにフラれただけのことです。」
「いつもフラれてねぇよ！……まぁ何もなかったのは本当だよ。まだ付き合ってもなかったくせに、あの頃からこの闇鬼神のガードが固すぎてむしろ何もさせてもらえなかった。」
「当然です。私は幼い頃からずっとAだけを想ってきたのですよ。それをこんなぽっと出の白豚なんぞに取られてたまるか。」
『……改めて言われると照れる。』
「え、見せてください！」

手で顔を覆って俯くAと、覗きこもうとする鬼灯。周囲は砂糖でも吐きそうな顔をしている。

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