真実 ページ49
21時すぎ、静かな中にガラスが割れる音が響いた。
その音はあるビリヤード場からだった。
「………嘘だろ」
音を立てた主は席から立ち上がり、震えるような声で、眼前に座る老人へ問いかける。
「…本当の事です。
盗一様のあのショーには細工がされていたことを確認しております……」
「…そうか」
どっ、と力なく椅子に座り込む。
俯いたまま、額の前で手を組んで、Aは目を閉じた。
その姿から、言いしれない怒りと動揺を読み取るのは容易だった。
事の発端は、病院から帰る時。
今後やるべき事を頭の中で反芻しながら、最寄りの駅へ足を進めていた時
『……A、お嬢様?』
『えっ』
懐かしい呼ばれ方に、思わずふりかえった。
『
『Aお嬢様なのですね……!お懐かしゅうございます…
そ、そのお怪我は?』
『…それより、何でここに?』
本当に偶然だった。
彼は寺井黄之助、先生の付き人をしていた老人だ。
先生が亡くなったあと、元々自分の所有していた店を経営するために帰って来ていたらしい。
立ち話もなんだからと、その足で寺井の店に寄った。
それが18時過ぎだった。
最初は本当にたわいもない話だった。
互いの近況報告や、そんなことばかり。
『なぁ寺井さん。そういえばさ』
先生との思い出話を話し始めたのは、Aからだった。
ショーでのこと、トリックのこと、フランスでの生活のこと…
歓談を交わしながら、やがてため息をついた。
『先生……稀代の魔術師が亡くなったのも舞台上……マジシャン明利に尽きるって言うのかな』
『違います!!』
突然声を荒らげた寺井に驚き、顔を上げる。
『盗一様は、あんなところで死んでいいお方ではありません……!』
『……そりゃ、そうだろ…!
だけど、事故だって』
『事故なんかではありません!!!盗一様は、奴らに……!』
ハッとして寺井は口を閉じるが、すでにAは呆然としていた。
驚きに目を見開いたまま、握っていたグラスが手から滑り降ちる。
卓上にハーブティーが溢れ、コロコロとグラスが台上を転がっていく。
『寺井さん……今…なんて?』
愕然とする彼女に、寺井は悔しそうに、重苦しく口を開いた。
真実とは、時として恐ろしい感情を植え付ける。
『………盗一様は、とある組織の手にかかり……あの舞台で殺害されたのです』
台から落ちたグラスが、床で弾けた。
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作者名:しゃ〜け | 作成日時:2022年12月28日 21時