暇人 ページ31
疲れた体にムチを打って、社員寮の階段を1段ずつ登る。
警察学校の卒業を迎えてから、だいたい1ヶ月。
10月も半ばを過ぎ、ハロウィンが近づいている頃だ。
おぼつかない手つきで鍵を取りだし、鍵穴を右へ回す。
ギィ…と音を立てて空いた扉の中に入り、後ろ手で鍵を閉める。
ここまではもう、この半月程度で習慣になってしまっていた。
靴を脱ぎ捨て、スーツのままなのもほぼ厭わず、寝室に直行する。
ぼふん、という音を立てながらベットの上へなだれ込んだ。
(き………きっつ………)
時間はまだ23時。体力と体感は深夜3時だ。
警察の仕事、舐めてたわけじゃない。それでも、見通しが甘かった。
希望通り、捜査二課の特殊犯へ所属できたとはいえ、
どれだけやっても終わりの見えない事務作業。暴れた被疑者の被害報告。外の見回り。清掃。他課への報告エトセトラ……
(あの量を平然とこなしてるわけ……?ヤバすぎる……)
もぞもぞとベットの上で姿勢を変えながら、来ていた服を脱ぎ捨てる。
今日は特別疲れた。キッドの事に詳しいというとある警部に話を聞いたら、もう延々と2時間以上どんな奴か語られた。
今日の残業原因はほぼこれだ。
(とんでもないマジシャンだ……か…それは正解…)
風呂に行かなきゃ。
うつらうつらする目を必死に眠らないよう、開く。
でももう動きたくない。
ウダウダとしていると、カバンの中で携帯が鳴った。
メールじゃない、おそらく電話だ。
手を伸ばして、やっと端末を掴む。
画面には「萩原」の文字。
(……萩原か)
動かない頭でボタンを押すと、なんだか、ワイワイとした声が聞こえてくる。
「…萩原ぁ?」
『やほーAちゃん、ひょっとして寝てた?元気?』
「これが元気そうなやつの声に聞こえるなら……」
『はは、随分とお疲れのようだ』
「そう、ついさっき家帰ってきたとこなんでな……」
普段通りに茶化すような萩原の声に、布団に埋めていた顔を少しあげる。
『ほら、陣平ちゃん。ちゃんと繋がった』
『まじかよ、Aー?』
「…また一緒なのかよ、酔っ払いども。仲良いなぁ」
『またってなんだよ、まだそんなに連絡した事ねーだろ、それに別に言うほど飲んでねーよ』
「うっせー……
どーーせ、また2人で飲んでたんだろ?羨ましー……」
この2人、萩原と松田は所属が同じということもあり、どうやら仕事終わりによく飲みに行くらしい。
そこまではいい、問題はその帰りに暇なのかよく電話をかけてくるということだ。
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作者名:しゃ〜け | 作成日時:2022年12月28日 21時