複雑な心 ページ28
それは、萩の口から発せられた言葉だった。
「卒業までもう1週間切ってるのか…」
「あ？…あぁ、そういやそうだったな」
先日、それぞれ教官へ呼び出され、各々の所属希望についての面談があったところだ。
もちろん、俺と萩原はスカウトを受けていたこともあり、問題なく爆処への所属が決まっていた。
「班長は交番勤務からやるんだと。親父さんの後追いたいみたいだな」
窓枠に腕を乗せて笑う萩原に、同じように枠に背を寄せた。
「そーいや、降谷と諸伏は？」
「あの2人は……聞こうと思ったらはぐらかされちゃってね、なんかあったんじゃないかな」
「へぇ……ま、所属になってから聞けばいいだろ」
あくびをして、ぼんやりと廊下に人の行き交うのを見ていた。
「あ」
「あん？なんだよ萩」
｢ほら、あそこ｣
萩の指さす先は、グラウンド端にあるベンチ。
その横にしゃがみこんで、何かしているような背中が見えた。
「Aちゃんだよね？」
「あいつ…何やってんだ？」
まとめられたその銀髪を肩に、しゃがんだままの姿を見つめる。
ふと、その姿が立ち上がったかと思うと、その手には猫を抱えていた。
「また猫かよ」
「猫好きだよね、Aちゃん」
呆れ気味の独り言に、萩は笑っていた。
ベンチへ座り直し、抱えた猫を髪でじゃらし始めるAになんとも言えないため息が出た。
「…陣平ちゃん、羨ましいとか思っちゃってる？」
「はっ…はぁ！！？ンなわけねーだろ！！」
「だよねぇ〜、猫に嫉妬するなんて、大人気ないぞ？」
ケラケラと茶化すように笑う萩原の脇腹を肘で突く。
俺があいつに嫉妬なんかする訳ねーだろ…色々あったとはいえ……
遊び疲れたのか、Aの膝上でのんきに丸まってあくびをする毛玉を見てると、何故か眉間に皺がよる。
だが、その猫を膝に、普段のあの無表情からは思いつかないほどの無邪気な笑顔を見せる彼女に、くっ、と心臓が締められる感じがした。
断じて可愛いとは思ってない。
「なぁあれ、新宮さんじゃないか？」
「猫と遊んでるのか…可愛いなあ」
「だよなー！あんな表情、俺見たこと無かった…
ひいッ」
笑いながらそこを通り過ぎる男子2人を、睨んだことに気がついたのか、彼らは慌ててその場から小走りで去っていく。
「チッ」
「ぶはっ」
「おい萩、何笑ってんだよ」
「陣平ちゃんってほんと天邪鬼というかさー…
なぁ、本当はAちゃんの事どう思ってるんだ？」
「だから別に……」
「俺たち親友だろー？隠し事はナシだぜ？」
「………俺は」
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作者名：しゃ〜け | 作成日時：2022年12月28日 21時
