わからん ページ20
翌日
例の1週間の清掃に借り出されているAは、今日もモップ片手に、1人風呂場で佇んでいた。
浴槽にぬるめのお湯を張っているのを眺めているのである。
本当なら、あの5人も来るのだが、それぞれの体育祭の種目で放課練習があってるらしい。来るのが遅れるとの事だった。
半分くらいお湯の張られた浴槽に、足をつける。
「うわー……ちょうどいい感じ……」
じわじわと温かさが伝わるお湯に、しばらく足をつけていたが、それを見ていると
少しだけ、魔が差した。
モップを床に投げ、Tシャツだと言うのもお構い無しに
「うりゃっ」
お湯に向かってダイブした。
服越しに伝わる温度が、本当にちょうど良くて、仰向けになって、浴槽の底に身体を沈める。
眠くなる温かさだ。
ゆらゆらと水面がひかり、少しずつ零れる空気が、泡を作って昇っていく。
とぷとぷと聞こえる水音に耳を澄ませながら、ぼんやりと泡の浮いていくのを見ていた。
(体育祭かぁ…………)
少しだけ口を開いて泡を作り、それを吐き出す。
ふわふわと昇っていくそれを目で追っていると
霞んだ水面の奥で、何かが揺れた。
直後、なにかに胸元を捕まれ、水面に引っ張り出される。
派手な水音とともに、少し薄くなっていた空気を一気に吸い込んだ。
合わせて湯気を吸い込んだせいか、ゴホゴホと咳き込んでしまったが。
「何やってんだお前!!!」
怒号にびっくりして声の主を見ると、これまでに見た事もないような形相の松田と、奥で呆れるように失笑する萩原。
「あ……げほっ……おつかれ」
「おつかれ、じゃねーよ!!何やってんだてめぇは!!死にてぇのか!!」
胸ぐらを掴まれたまま怒鳴る松田に、キョトンとしてしまう。
「え…な、何って……….
和んでた?」
「はぁ!?ふざけんなよ!?」
何をそんなに怒ってるんだ……?
投げ出したモップが目に入る。
「悪い、掃除サボってた……いってぇ!!」
「そういうことじゃねえよ!!」
イライラが増しているのか、松田はべシッとデコピンをすると、そのまま腕を掴んで浴槽から連れ出す。
「お前、怖いから1人で浴槽の掃除すんな!!俺がやる!」
鬼のような形相のまま、松田はモップを担いで歩いていく。
「え…な、なんかした?」
ちらり、と萩原の方を見ると萩原も、笑ってはいるが、少し怒気というか、そんな雰囲気を滲ませている。
「は……萩わ…らっ!?」
チョップをかまされ、痛みで頭を抑える。
「Aちゃん、心配になるような事しないでね?」
「心配?んな事した記憶……」
「しないでね?」
「お………うん」
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作者名:しゃ〜け | 作成日時:2022年12月28日 21時