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優しさを ページ50

場所は変わって談話室。
ずぶ濡れになったAを抱えた、これまたずぶ濡れの松田がドアを蹴り開けて入ってきたのだから、談話室は騒然としていた。

「ちょ、ちょっとAちゃんどうしたの!?」

「2人とも…何があったんだ?」

ソファの背もたれにもたれかかったまま、Aは何も言わない。
心配そうな萩原達も、何かあったのかと察し、ソファを囲うように、各々イスやクッションを持ってきて座っていく。

「…Aちゃん、本当に大丈夫なのか?」

静かになった中、ヒロが優しく声をかける。
Aはそれを肯定するのか、首を軽く振った。

小さく深呼吸をする声が聞こえる。

言うのを躊躇うかのように、Aは口を開きかけては閉じる。
しばらくの沈黙の後、乾いた笑いをこぼして、ゆっくりと言葉を続けた。


「……大事な…大切な人が亡くなったんだ」

「……」

何人かが、息を飲んだ音が聞こえた。

「その人……先生は、マジシャンだったんだけど、フランスにいた時色んなこと教えてくれた人で……恩師で、父親で…変え難い存在だった」

そっと、口元の傷口に触れる。
通り魔事件の時に助けてくれたこと、頼れる相手になってくれたこと、他にも、ぽつぽつと思い出話を口に出す。

話してるうちに、またじわりと涙が零れていく。

「……ごめんな、私情に巻き込んだ。ほんとにごめん」

5人が、私のことを探し回ってあちこち行っていたことは先程聞いていた。
改めて本当に申し訳なくて、頭を下げた。


視線は感じるが、誰も何も言わない。
それもそうか、完全に私情だ。それなのに皆の時間を使わせてしまった。

そう思っていると、すぐ横に誰かが座ったような気配がして、頭に何かが乗った。

それはわしゃわしゃと髪をボサボサする勢いで頭を撫でた。

「……申し訳ないとか、ンなこと思うんじゃねえよ」

声に顔を向けると、いつもみたいに仏頂面だが、どこか優しげな松田の顔が目に映る。

「……辛かったな、新宮」

「そういう時は一人でいたらダメだよ、俺達のことも頼って?」

「班長……萩原……」

「大丈夫だよ」

ぎゅっと、右手を握られる。

「大丈夫、Aちゃん」

包み込まれた手から伝わるヒロの体温と柔らかい笑顔に、また涙腺が緩むのをグッとこらえた。

「何かあったら僕たちがいるから、だから泣きたいなら泣けばいい。我慢なんてしなくていい」

「……っんで分かるんだよ」

5人の優しさに、またしばらくの間涙が溢れたのは言うまでもなかった。

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しゃ〜け(プロフ) - 早桃さん» 早桃さん、コメントありがとうございます〜!!!面白行っていただけてもうめちゃくちゃ嬉しいです!!頑張って更新していくので、今後も是非よろしくお願いします〜!! (2022年12月27日 1時) (レス) id: 8454d3df8d (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - すっごい好きな作品です!面白い!これからも無理せずに更新頑張って下さいね!応援してますぅぅぅ! (2022年12月26日 12時) (レス) @page37 id: f9af42ef58 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しゃ〜け | 作成日時:2022年12月19日 2時

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