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ずぶ濡れの ページ49

どのくらい時間が経ったのか分からない。

雨足は少し軽くなり、空はとっくに夜に落ちていた。

なんだか酷く疲れて、全身に力が入らない。

(動きたくない……)

「A!」

背後で声がした。
パシャパシャといういくつかの足音ともに、その気配は近づいてくる。

「こんな雨の中何してるんだ、風邪ひくぞ」

気遣うような言葉は、すぐ隣にしゃがみこんだ。

「……ゼロ…松田?」

聞き覚えのある声に、消えていた音がまた耳に入ってきた。

「お前……」

「泣いて、るのか……?」

腕の隙間から、ちらりと2人を一瞥すると、ぎょっとしたような顔をしていた。

「ごめん……なんでもない、なんでもないんだ」

ゆっくり顔を上げて、心配しなくていい、と笑う。
だが、反して2人の顔はいつになく真剣なものへと変わっていく。

「……無理はしなくていい。辛いなら……尚更だ」

真っ直ぐに見つめられたゼロの視線に、雨の中こんな所まで来させてしまったことが申し訳なくて、また顔を伏せる。

「A」

再度名前を呼ばれる。

「何があった」

低くも、どこか気遣うような声と一緒に、バサリと背中に何かがかけられる。それが松田の手にしていたパーカーだと気づくのには、そうかからなかった。

「松田……濡れるぞ」

「濡れて悪ぃと思ってんなら、早く中戻んぞ」

松田もゼロと反対側にしゃがみこむ。
口ではそう言っているが、その顔はいつになく不安そうだった。

「A、このままだと僕たちまで濡れ鼠になってしまう………立てるか?」

立てるか、と聞いては来るものの、ゼロその手は優しく背中をさすっていた。

「先に、戻ってていい」

「バカ、こんな雨の中、しかも泣いてる同期置いて帰るなんて、僕には無理だ」

「だいたい、俺たちゃお前を探してたんだよ。戻れねぇ理由があんなら話せ」

2人の言葉に、ぷつりとギリギリの強がりが崩壊した。

「……ごめん、動けないんだ」

顔を伏せたまま、力なく呟く。
立ち上がる気力も、話す気力も、もうそんなに無かった。

「そうか……わかった」

納得するような声が聞こえたかと思うと、グッと身体がもちあがる様な感覚に、顔を上げた。

「悪い、濡れて気持ち悪いかもしれないが、ちょっと我慢しろよ」

やけに近い松田の声に、抱き抱えられてるのだと気がつく。


「……ごめん」


雨で濡れて冷えた身体には、包まれるような人の暖かさは酷く安心できて、またぼたぼたと涙が溢れていた。

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しゃ〜け(プロフ) - 早桃さん» 早桃さん、コメントありがとうございます〜!!!面白行っていただけてもうめちゃくちゃ嬉しいです!!頑張って更新していくので、今後も是非よろしくお願いします〜!! (2022年12月27日 1時) (レス) id: 8454d3df8d (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - すっごい好きな作品です!面白い!これからも無理せずに更新頑張って下さいね!応援してますぅぅぅ! (2022年12月26日 12時) (レス) @page37 id: f9af42ef58 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しゃ〜け | 作成日時:2022年12月19日 2時

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