懐古 ページ46
やっぱり、今日が雨で、良かったかもしれない。
ザァザァと肌にあたって流れていく雫が、頬をつたい、服を濡らしていく。
「……冷た」
自嘲するように、全身が濡れるのも全く構わず、雨の中で俯く。
うなだれた足元で、パシャパシャと水が跳ねた。
部屋に戻る気になれず、酷い雨なのにいつの間にか屋上まで来ていた。
それなのに、曇天に覆われた街の明かりは、変わらず光っていて
「先生……勝ち逃げはずるいですよ」
黒羽盗一、先生と呼んでいた。
彼は、10年ほど前から世界を騒がせる怪盗1412……通称怪盗キッドだった。
たまたまそれを知ってしまった時は、墓まで持っていくと決めたが、先生は
『気をつけなければ、君に捕まってしまうな』
そう笑っていた。
『先生を捕まえれる人なんて、居るんですか？』
『ははは、どうだろうなぁ』
『工藤先生なら…もしかしたら……もしかしたらですよ？
私がサポートしたら、捕まえれるかもしれないですね』
『確かに、君たちにタッグを組まれるのは
少しだけ怖いな』
もう3年も前の話だ。
正体を知っているなら、と彼のバックアップもした事があった。必要ない事だったかもしれないが。
「懐かしいなぁ………先生………」
前に、ゼロと松田に警官を目指す理由を答えたのも、そういえばここの屋上だ。
……嫌がらせのつもりだって、そんなこと本当は考えてもなかった。
むしろ警察に協力者がいた方が動きやすいかなって、そんなこと思ってた。
警察になりましたって、そう言ったら
なんて返してくれたんだろう。
先生のことだ、きっと笑って「凄いな」って。
言ってくれるって。
「………っ……なん…で」
溢れるそれを止めることなく、酷く濡れた身体を抱え込んだ。
彼は、もう居ない。
事故じゃしょうがない。どうすることも出来なかった。
その事実を、表すかのように、雨足は強まる。
もし過去に戻れたら。
もし、人を甦らせることが出来るのなら。
雨音が、Aと世界との音をかき消す。
収まらない嗚咽と涙とも雨とも分からない水をそのままに、しゃがみこんでひたすらに泣いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 297人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「名探偵コナン」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
この作品が参加のイベント 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しゃ〜け(プロフ) - 早桃さん» 早桃さん、コメントありがとうございます〜！！！面白行っていただけてもうめちゃくちゃ嬉しいです！！頑張って更新していくので、今後も是非よろしくお願いします〜！！ (2022年12月27日 1時) (
レス) id: 8454d3df8d (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - すっごい好きな作品です！面白い！これからも無理せずに更新頑張って下さいね！応援してますぅぅぅ！ (2022年12月26日 12時) (レス) @page37 id: f9af42ef58 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しゃ〜け | 作成日時：2022年12月19日 2時
