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そう言って先生は窓の桟に足をかけ、しなやかな動きで向こう側の廊下へ降りた。
伸ばされた手を握ると、ぐんっと引かれる。
今度はさっきより楽に超えることができた。
「真っ暗ですね。」
「怖い？」
「………ちょっと。」
ちょっとどころではない。
ひとつの明かりもついていない中に、ただずっとまっすぐ長い廊下が続いている。まるで終わりがないように見える。
先生はわたしの手を強く握ってくれた。
「でも、ワクワクしない？」
先生に手を引かれ、わたしたちは歩き始めた。
暗闇の校舎に、ふたつの足音が反響している。
.
「………変わってない。」
扉を開けた先には、懐かしい匂いがいっぱいだった。
たくさんの本棚が聳え立つ図書室。まばらにテーブルと椅子が並んでいる。夜闇に浮かび上がるシルエットは無機質に真っ黒で背が高く、不気味だった。
「あれ、あるかな。」
先生の方を向くと、目が合う。
僅かに息を吸い込む音が聞こえた。
「「罪と罰。」」
ふたりの声が綺麗に重なり、予想外のことに笑い合った。
奥の方が文庫小説の場所だったはずだと、意外にも残っている記憶を頼りに本棚の間を抜けていく。懐かしい場所に来た感覚と、初めての場所に来た感覚が入り混じる、不思議な気持ちが押し寄せる。
「………あった、」
先に見つけたのは先生だった。
少し埃の被ったそれは、しばらくの間誰にも読まれていないらしい。平野先生が買い取り、その時に司書さんが新しく入れたもの。
先生が手にしているその本の表紙をなぞった。
「………俺は、全部捨てるよ。」
「………え？」
「今まで手に入れたものすべてを捨てても、Aを選ぶよ。」
核心に触れる言葉。
先生の視線はいつからか、本ではなくわたしに注がれていた。
「わたし、は………」
何度忘れようとしてもわたしにはできなかった。
心が覚えている、先生への恋焦がれる想いのすべてを。
「だから、」
先生の目がわたしを射抜いた。
衝動が頭の上から爪先までを駆け巡る。鼓動となって伝わる。
「一緒にいよう。」
捕らえられた瞳は離すことができない。
そうして数時間とも思える長さでほんの少しの時が過ぎ、瞼を伏せた先生の顔が近づく。
×××
102sins ページ2
×××
そう言って先生は窓の桟に足をかけ、しなやかな動きで向こう側の廊下へ降りた。
伸ばされた手を握ると、ぐんっと引かれる。
今度はさっきより楽に超えることができた。
「真っ暗ですね。」
「怖い？」
「………ちょっと。」
ちょっとどころではない。
ひとつの明かりもついていない中に、ただずっとまっすぐ長い廊下が続いている。まるで終わりがないように見える。
先生はわたしの手を強く握ってくれた。
「でも、ワクワクしない？」
先生に手を引かれ、わたしたちは歩き始めた。
暗闇の校舎に、ふたつの足音が反響している。
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「………変わってない。」
扉を開けた先には、懐かしい匂いがいっぱいだった。
たくさんの本棚が聳え立つ図書室。まばらにテーブルと椅子が並んでいる。夜闇に浮かび上がるシルエットは無機質に真っ黒で背が高く、不気味だった。
「あれ、あるかな。」
先生の方を向くと、目が合う。
僅かに息を吸い込む音が聞こえた。
「「罪と罰。」」
ふたりの声が綺麗に重なり、予想外のことに笑い合った。
奥の方が文庫小説の場所だったはずだと、意外にも残っている記憶を頼りに本棚の間を抜けていく。懐かしい場所に来た感覚と、初めての場所に来た感覚が入り混じる、不思議な気持ちが押し寄せる。
「………あった、」
先に見つけたのは先生だった。
少し埃の被ったそれは、しばらくの間誰にも読まれていないらしい。平野先生が買い取り、その時に司書さんが新しく入れたもの。
先生が手にしているその本の表紙をなぞった。
「………俺は、全部捨てるよ。」
「………え？」
「今まで手に入れたものすべてを捨てても、Aを選ぶよ。」
核心に触れる言葉。
先生の視線はいつからか、本ではなくわたしに注がれていた。
「わたし、は………」
何度忘れようとしてもわたしにはできなかった。
心が覚えている、先生への恋焦がれる想いのすべてを。
「だから、」
先生の目がわたしを射抜いた。
衝動が頭の上から爪先までを駆け巡る。鼓動となって伝わる。
「一緒にいよう。」
捕らえられた瞳は離すことができない。
そうして数時間とも思える長さでほんの少しの時が過ぎ、瞼を伏せた先生の顔が近づく。
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こころ(プロフ) - 更新ありがとうございます！続きも楽しみです！ (2020年12月16日 23時) (
レス) id: f2c5e943bf (このIDを非表示/違反報告)
niko(プロフ) - 更新待ってました！！雨音さんのお話は切ないところもあってとても惹きつけられます。何度読んでも飽きません。これからの更新も楽しみにしています！頑張ってください！ (2020年12月16日 23時) (レス) id: 250948a169 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - Lさん» ありがとうございます。久しぶりに続きを更新しました。お待たせ致しました！ (2020年12月16日 22時) (レス) id: 22fe178912 (このIDを非表示/違反報告)
L - 泣きました！続きが気になります！ (2020年11月28日 23時) (レス) id: 16ad01b6c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨音
| 作成日時：2020年10月26日 21時
