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「Aさん、おはよ。早速なんだけど宿題写させて」
「あ、俺も俺も」
「おいお前らAさん困っちゃうだろっ、て言っといて俺も見たい」
「1番やべぇのお前じゃん」
朝、教室へ入り、自分の机に荷物を置くと数人に囲まれた。もう慣れたものだった。
「……はい」
ノートを出した瞬間、私の手から奪い取るようにノートは彼らの手に渡る。
「サンキュー!あっぶねぇこれで怒られなくて済むぜ」
「まじありがとう!」
彼らはそう笑って私にお礼を言うとみんなで集まって私の宿題を写す。見慣れた光景だった。ヒソヒソと小声が聞こえてくる。否が応でもその小さな声は朝の喧騒に紛れることなく私の耳に入り込む。
「またやってるよ男子」
「AさんもAさんだよ、あんな風にいつも渡すから付け上がるのに」
「ね、お人好しにも程があるって言うか」
これでいいんだ。これで。
誰かに必要とされるならそれで。
ガラリと乱暴に教室のドアが開く音が響いて、教室の音が一瞬止んだ。皆がドアに視線を向ける。ドアを開けたのは伏黒恵、その人だった。不機嫌です、と声を大にして言うような表情で気だるそうに立っている。
クラスメイトが彼の姿を目に止めてから、数秒ぽつぽつとそれぞれ会話をし始めてやがて普段の喧騒へと戻っていく。私は前髪の隙間から目を合わせないように伏黒くんの姿を見ていた。それでも。
ちらり、と私を見た彼の双眸に私は一瞬肩を震わせる。数としては数秒もなく、本当に一瞬目が合った。彼はそのまま足を進め、自分の席に目を向けている。
私の席の前を通った時だった。
「はよ、」
小さく、彼が呟いた。私にしか聞こえない声で。
「お、はよ」
私が言葉を返した時には彼はもう私の目の前を通り過ぎていた。私の声は朝の喧騒に溶けて消えた。
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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません💦 (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時