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シャツに袖を通し、ネクタイを手に取る。袖の端が少し茶色に染まっているのは家事に慣れない廉が不器用ながらアイロンをかけてくれたからだ。

血は争えないとはよく言うけれど、不器用なのは大概私も同じ。いいや、廉より余程酷いかもしれない。
現にネクタイを手に、死闘を繰り返して秒針が何回回っただろうか。
ほら、また上の方が妙に短くなって歪で格好悪い。

もう、勘弁してよ。大体、ネクタイ如きに時間と労力を費やせるほど朝の女子は暇じゃないんだから。
アイロンで寝癖を整えて、日焼け止めとリップを軽く塗って。校則が厳しいから化粧はしないけれど、それでもなにかと男子の倍は支度にかかるもの。


「れーん、ネクタイやって。」
『またー?ちょっと、じっとしとって。』


たまたま通りかかった廉を呼びつけて、ネクタイを託す。
またって言うけど、夏期講習の間は殆ど自分でやったもん。そもそもこうして小言を挟みつつも、いつも結果的に手を貸す自分にも責任があるのでは。なんて理不尽な文句は喉に通す前に飲み込んだ。

俗に言う、廉は過保護なシスコンだ。そして私は言うまでもなくそんな兄に悪びれもなく甘やかされるブラコンである。
言わば、ネクタイを結んで貰うのなんてほんの序の口。

朝は五分おきにアラームをかけようとも、平気で爆睡し続ける私を毎日部屋まで起こしに来てくれるし、子供の時から苦手なピーマンは自分もそんなに好きじゃないくせに代わりに食べてくれるし、外に出ようと思えば目と鼻の先でも迷子になる私を見兼ねてどこへ行くにも必ず付き添ってくれる。


私たちはそんじょそこら辺の兄妹とは少し違う。
廉が異常なほど過保護なのは、他でもなく私が両親に愛想をつかされた可哀想な子だからである。

確かに物心がついた頃から廉はいつでも優しくて、面倒見のいい自慢のお兄ちゃんだった。
けれどそれは、あくまでどこにでもいるごく普通な妹思いの兄でありそれ以上でも以下でもなかった。

ただ、年月を重ねる毎に私に対する両親の風当たりが強くなればなるほど、比例するように廉は過剰に世話をやくようになった。


ふたりでひとつ。大袈裟じゃなく、廉がいなければ、恐らく私はここまで生きてこれなかった。

廉はいつだって、私だけのヒーローだった。
少しばかり小煩くて不器用だけれど。

:→←chapter.01* 提灯に釣鐘



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恋(ren)(プロフ) - sakiさん» ありがとうございます。マイペースな更新になりますがお付き合いいただけると嬉しいです! (2020年3月18日 4時) (レス) id: 4779cb5bc5 (このIDを非表示/違反報告)
saki(プロフ) - めっちゃ面白かったです!!続き楽しみにしてます♪ (2020年3月17日 23時) (レス) id: 6230179af3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:恋(ren) | 作成日時:2020年2月15日 0時

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