うさぎのひとまわり２ (ページ6)

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○やさしさページ6

ため息が出る。

「どうしたの、そんなため息ついて」
「んーん」

友達が私の志望校の推薦入試を受けて、合格したらしい。彼女だって空気が読めないわけじゃないから、表に出して喜んでいたわけじゃない。

でも噂は瞬く間に広まるものだ。

私は一般試験で頑張って来年まで試験があるのに、あの子はもうあの大学に行けるんだ。そう思ったら変に息が詰まって、自分の眉が下がるのがわかる。

苦しい。

でも、しげくんに心配はかけたくない。悩みのひとつでも打ち明けてしまえば、きっと色んなところで気遣ってくれてしまう。そんなところは大人だ。

「なぁ、なんかあった？」
「なんもないってば」
「じゃあ何でそんな泣きそうな顔してんの」
「甘いもの不足です」
「は、そんなことかよ」

不安を隠すために咄嗟に出た小さな嘘に、向かい側に腰掛けていた彼が財布とスマホを持って立ち上がった。

「何がいい？」
「シュークリーム、」
「はいはい、いつものな」

行ってくるわ、と閉まったドアの音と共に、溜めていた涙が堰を切ったように溢れ出した。

苦しい。不安。怖い。
マイナスなことがたくさん頭をよぎった。

「優しい嘘はついてもいいよ」

突然降ってきた言葉に顔をあげると、出掛けたはずのしげくんがひどく優しい笑顔で立っていて、彼の手が頭にポンと触れた。

「優しい嘘が必要な時はたくさんある」

そう言った彼の言葉には、彼の今までがたくさん見え隠れする。
私が生まれる前の12年間のこと。
付き合うまでの16年間のこと。
彼の誰かのための、たくさんの優しい嘘。

「でもね、俺には悲しいことでも苦しいことでも、本当のことを教えてほしい」
「しげくんのこと、傷つけちゃうかもしれないよ」
「人間って強いから、傷はいつか癒えちゃうの」

そう言われても私はしげくんの傷ついた顔を見たくない。
その原因が私にあるなんて耐えられない。

「俺だってAが苦しそうなの見てらんない。理由も知らずに苦しんでるの見てるのは不安。だって、彼氏だろ、俺」
「……うん」
「じゃあ涙を止めろとは言わないから不安吐き出せ」
「……苦しくて、怖くて、羨ましくて、」

あったかい手が苦しかったことを解く。諭すような声も、くっついた柔らかさも、吸い込んだ香りも全て、優しい嘘よりも優しい彼。