可愛くねぇ奴。- 2 -

9 ページ9

.





.





楽しかった時間はあっという間で、私のために淳太が作ってくれた、岸とのたっぷりな時間も終わってしまった。

ボーイが終わりの合図をして、岸は帰る用意を始めてしまった。

いつもの会社の電気ではなく、ここのシャンデリアの光を浴びている岸はもう見ることができないし

ここで彼と過ごせる時間は、もうこない。

まだいて欲しい、まだここで話したい、それが正直な気持ちだけど、そんなこと私には言えない。



「もう帰る？」

『うん、明日も仕事だしな』

「気をつけて帰ってね」

『あぁ。お前も気をつけて帰れよ？』

「うん。ごめんね？お見送りできなくて」

『全然いいよ、大丈夫』



するといつの間に、どこかに何かを隠していたらしい岸が、茶色の無地の紙袋から何かを取り出した。



『…はい』

「へ…？」






それは、とてもとても綺麗な、小さい花束だった。






『お疲れさま』






差し出されたそれを、ガラにもなく小さく震える手で受け取る。

それは、紫と白の花で作られた花束だった。






「ほんとに…？」

『小さくてごめん』

「そんなことない…っ、ほんっとに嬉しい…」





花束を抱きしめ、そう言うと、顔を赤くして彼は『じ、じゃあ俺行くわ』と言う。


私も急いで立ち上がって、帰る彼に手を振る。


すると数歩進んだ彼が振り返って、真っ赤な顔、真っ赤な耳のまま、私が好きなあの笑顔で、

“ あんなこと ”

を言うから。


何もできなくなって、気づいた時には、もう彼の姿は無かった。






「もう…ほんっとに…」







“ _____めちゃくちゃ綺麗だよ ”








.








.

10→←8

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す