8 ページ8
.
.
「源氏名さん」
「はい」
「お時間です」
「はい」
ボーイの合図でお客様に改めてお礼を言って、席を立ち、自分の更衣室にもらったプレゼントを置く。
「J卓の岸様です」
「はい」
この場所では不慣れな名前に、ドキリと胸が高鳴る。
「オーナーなら事情は聞いています。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
私は岸の待つテーブルに向かった。
今日もお昼に会ったから、数時間ぶりの再会だ。
「お待たせ致しました。岸さん」
見慣れたスーツを着ている岸が、私を見てグッと目を見開く。
「お隣よろしいですか？」
『あ、はい…ど、どうぞ…』
少しだけ奥にズレてくれた岸の隣に、私はそっと腰掛けた。
「来てくれてありがとう」
そう言うと、私の話し方に安心したのか、少し安心したような顔をする。
「好きなの飲んで？お代は頂かないから、ね？」
『え、でも、』
「いいの、ね？淳太がせっかくそう言ってくれてるんだから」
『まじか後でお礼言わねぇと…』
飲み物を選び、改めて岸に向き直る。
「…どう？夜の私は」
『…正直、ビビった』
「？」
どういうこと？、と首を傾げると彼は視線を自分の手に落としてしまって目が合わない。
『いや、やっぱ何でもない！w』
「えー、教えてよ〜」
『揺らすな揺らすな！酔う！』
声を出して笑い合って、運ばれてきた飲み物で乾杯をする。
やはり彼と過ごす時間は心地がいい。
『？なんかついてる』
「ん？どこ？」
『取っていい？』
「うん、お願い」
私の耳元に手が伸びる。
それがどうにも、キスをするときの手の動きみたいで、体温が上昇する。
何が付いているのか見るために、少し顔を傾ける仕草も、手をゆっくり私に伸ばしている仕草も、とにかく全部、そう見えてしまって困る。
…私も顔を傾けて、彼にキスができたらいいのに。
その長くゴツゴツした綺麗な指を私の後頭部に差し込んで、引き寄せて、キスをしてほしい。
それで、その甘い笑顔で微笑んで、おでこをコツンとくっつけてほしい。
『…糸くずかな』
「取れた？」
『うん』
「ありがと」
夢見る距離はあっさり離れてしまって、いつもと違う香水の香りだけが私の近くに残った。
それがあまりに寂しくて、もっと近づきたいなんて思って。
まるで甘い蜜に集まる生き物の様だった。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 312人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ジャニーズWEST」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ash(プロフ) - 涼杜兄妹さん» いつも楽しみにしてくださってありがとうございます！ (2020年6月16日 23時) (
レス) id: 8c76b61c28 (このIDを非表示/違反報告)
涼杜兄妹(プロフ) - 後輩ちゃんに敵意が出てきました（笑）主人公ちゃんがんばれ！岸くんは怪我とか元気ないの気付けるのに…ちょっと惜しい！気付いてあげて！！ (2020年6月15日 23時) (レス) id: 400e48a6ce (このIDを非表示/違反報告)
ash(プロフ) - 涼杜兄妹さん» 焦ったさを伝えられてよかったです！!いつも温かいコメントありがとうございます、今後もよろしくお願いします！^ ^ (2020年6月15日 19時) (レス) id: 8c76b61c28 (このIDを非表示/違反報告)
涼杜兄妹(プロフ) - まさかのすれ違いー！！！ものすごく焦れったいです！岸くん玄樹くんや後輩ちゃんじゃなくて主人公ちゃん第一に動いてあげて！！どうなるのか今後も楽しみです♪ (2020年6月14日 17時) (レス) id: 400e48a6ce (このIDを非表示/違反報告)
ash(プロフ) - 涼杜兄妹さん» ありがとうございます！お待たせしてすみません(汗) 楽しんでいただけているようで本当に嬉しいです^ ^ (2020年6月14日 15時) (レス) id: 8c76b61c28 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ash
| 作成日時：2020年5月17日 11時
