可愛くねぇ奴。 (ページ50)

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「ねぇ淳太」

「んー？」

最後に飲み物を運び終わって椅子に座る淳太に私は声をかける。

「淳太のことだからもうとっくに分かってた思うけど、…私、お店引退する」

「ほんまに辞めるん」

「うん、だって目的は達成したからもう、あそこにはいられない。」

「べつに俺がオーナーなんやから、俺がええよって言ったらええんよ。」

「ううん、私の区切りだから」

「寂しいなぁ。売り上げも下がるやん絶対」

「大丈夫よ、あの店には優秀な女の子達しかいないんだから」

「お前なぁ、お前の売り上げが他の子達の何倍か知ってるやろ」

「…それは、まぁ…」

「まぁ売り上げだけやなくてさ。…純粋にお前と働くの楽しかったからさ。」

「…そっか」

「…まぁ、あれやな！これからはオーナーと姫やなくて、普通の友達や」

「淳太…」

「友達として店に遊びに来て、友達としてこうして家に来て、友達として連絡してこい。
友達として仲良くしようや」

パンをかじりながら柔らかい顔でそう言われてしまったら、私の涙腺も緩む。

「ちょ、おい泣くなって！泣かせる男に会うなって言ったの俺やん！」

「めっちゃ泣かせるじゃん！」

「泣いてくれると思わんやん！」

「泣くわ！」

「あーもう…ほらほら泣き止め、な？」

ティッシュを目元に優しく当てられ、涙を拭いてもらいながらパンをもぐもぐとかじる。

「…もう源氏名やないんか。Aか」

ポツリと呟いた一言は、これからの私の人生が少しだけ変わることを自覚させた。

「そうね、私の本当の名前はAだからね」

「癖で源氏名で呼びそうやわw」

「私も振り向いちゃいそうw」

「……ほんまにお疲れ様、ありがとう」

「こちらこそ、お世話になりました。」

こうして、2人いた私は
何年かぶりにまた1人に戻ることができた。

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