可愛くねぇ奴。 (ページ20)

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昼休み、ぐぐっと体を控えめに伸ばしていると携帯が短く震えた。
画面には岸の名前があって、少しだけ驚いた。

『お疲れ』
『俺もさっきお菓子もらったんだけどいる？』
『さっきもらったし』

岸は律儀な人だった。
私は「ほしい」と返信をして席を立つ。

廊下に出ると彼は既にいた。
彼はここで待ちながら連絡をしてきてくれたのだろうか。

「岸～」
『よ、』
「わざわざお返しくれるの？ありがとう」
『もらいっぱなしは申し訳ないしな』

手を広げると艶のあるマドレーヌが置かれた。

「あ、これ私好きなやつだ」
『あ、まじ？』

じゃあまたもらったらお裾分けする、と、にかっと笑った。

「いいの？」
『うん、だって好きなんだろ？』
「好きだけど…」

「Aさーん」

「あ、岩橋くん」

隣の部署から岩橋くんが手を振ってこちらに向かって歩いていた。そして岸の隣に並ぶ。

「お昼、よかったら一緒にどう？」
「うん、いいよ」
「ほんと！？」
「うん。岸も一緒に食べよう？」

すると岸は一瞬だけ固まった。

ほんの一瞬だけ、きっと夜の仕事をして洞察力がついたからこそ見えたその一瞬。

『いや、俺はいいや。約束しちゃってるからさ』
「そっか」
『ごめん！また誘って！』

じゃ！と戻って行った彼の背中を目で追う。

「Aさん、行こ？」

もしかして、岩橋くんのためだったりするのだろうか。
私のことが好きだ、と隠さない彼のため。

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