可愛くねぇ奴。 (ページ2)

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「ただいま～…」

慣れた日々の中のある日。
誰もいない部屋の電気をつけ、ソファに腰を下ろす。

「疲れた…」

時計を見るとテッペンを越えてから十数分が経っている。
お風呂を沸かしている間に、部屋着に着替えた私はベランダに出る。
高層のここは、他よりも空に近い。
そんな空を見ながら、夜のお客様の付き合いでいつからか始めた煙草に火をつける。
何も考えず、ただその1本が終わるまで味わう。

1日の最後の煙草を吸い終わると、夜の私がようやく終わる気がした。

「さむ～……」

会社員としてパソコンと向かい合う私も私で、
黒服兼オーナーの淳太が経営するキャバクラのNo. 1の私も私だ。

今日は、一段と冷え込んでいる。

私が夜の仕事をしているなんて、会社の誰が知っているというのだろうか。
誰にも知られたくないし、教えるつもりはさらさら無い。

そんな私がNo.1をやっている店が、どんな店なのか。

他の店とは雰囲気の違う、高級感溢れる淳太の店はどの店とも違い、No. 1の顔出しをしない。
ガチャガチャで例えるところのシークレットだ。

何回も、何回も、通ってくれたお客様に「最高級の姫がいます」とそこで初めて私が売り出される。

そんな噂を聞き、私を指名したいと店に通い始めてくれたお客様が多いらしく、今では私を指名できるお客様が少しずつ増え、それに比例して忙しさも徐々に増している。

…一体、どれほどの額を支払っているのだろうか。

「さむ…」

でも、そのお客様の中に私の待ちわびている人はいない。
たった1人を待ち続けているのに。
あの人は、来ないのだ。

もう、3年も待っているのに。

…あの時から変わった私を、早く見て欲しいのに。

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