忍足 ページ9
夏風邪を拗らせた、というなんとも情けない診断を受けた鶴見は自宅に送り届けられると、肌の上でベタつく汗から逃れようと軽くシャワーを浴び、寝室のベッドにじっとしていた。とりあえずいつのものかわからない冷えピタを額に貼り、眠るわけでもなく、カーテンの隙間から差し込む夕日と月光を目で追っていた。最近、気の弛みがあることは自覚していた。山本に想いが伝わって数ヶ月。引き締めようとしてもどうにもならず、気持ちをコントロールできなかった。ぼーっとする頭に電子音と金属の音が響く。聞き慣れた音に目を閉じるが、今のは玄関ロックの音だと気づいて動かない体に眉を顰める。
「Aさーん、」
寝室の扉を開けてひそひそ声で鶴見の名前を呼ぶ声は、紛れもなく山本のもので、鶴見は合鍵を渡していたことを思い出した。眠っていたら諦めて帰るのではと、頭を切り替えて狸寝入りを試みる。
「ふふっ、寝てる。」
顔にかかった髪を退ける山本の手つきは目を閉じててもわかるほど優しく、鶴見は熱が上がったのを感じる。山本はおでこに手を当てて冷えピタを剥がし、数分後に鶴見のおでこには氷嚢が乗せられ、急に乗せられた凍みに肩を竦めた。
「起こしちゃいました？」
「…………起きてた。氷ありがと。」
早く帰って欲しかったのには理由があった。鶴見は悩んでいたのだ。職業はプロ野球選手。今までは何か野球に支障が出るなら、プライベートを犠牲にしてきた。
「由伸、」
山本は、用意した氷水にタオルを浸しながら聞いていた。静かな部屋に氷の音が心地よく響く。
「…少し離れたい、」
「…」
「……野球に集中できてない。今日も一軍登録されたと思ったらこんなで。」
「前の抹消は肘の違和感でしょ。全力投球の結果ですよ。」
黙ったままの鶴見の額に冷えたタオルを置いて山本は続けた。
「辛そうなAさんを放って置けるわけないです。」
「………」
「それに、俺と距離置いたら、Aさん死んじゃうかもよ笑」
鶴見はその声を否定をできなかった。
「来てくれてありがと。移るから、とりあえず帰りな？」
「……うん。そうします。」
否定できない代わりに肯定もしなかったのはせめてもの抵抗のつもりだったが、そんなものは山本には通用せず、タオルを退かして唇を落とし部屋を出ていった。玄関のドアが閉じる音がしたのを聞いて、鶴見は頭まで布団を被った。額の上の冷たさより優って、キスされた部分が熱を持っていた。
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フジ(プロフ) - もぴさん» ありがとうございます！何度も読んでいただけているの、とっても嬉しいです！！！繁忙期とストック不足が重なって少しずつの更新になってしまいますが、完結目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いします！ (11月13日 19時) (
レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 天翔＊さん» 2人の気持ちが再会できてよかったです笑 これからも天翔＊さんの展開を想像しながら気長にお待ちいただけたら嬉しいです！ (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
もぴ(プロフ) - 何度も読み返している大好きなお話です！この先の更新も楽しみにしています！ (11月9日 20時) (レス) id: 14fd480e3d (このIDを非表示/違反報告)
天翔＊(プロフ) - もう本当にこの展開を待ってました。最高すぎます… (11月8日 19時) (レス) @page30 id: 0e0fd021ce (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 大津さん» ありがとうございます！もう最後までストーリーは決まっているのですが、期待に応えられるような展開になっているかドキドキです笑 これからもよろしくお願いしますー！ (10月29日 22時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：pH | 作成日時：2023年9月19日 18時
