終幕 ページ5
付き合えるなんて思っていない。山本が他の誰かと仲良くするたびに膨れ上がる想いは、とっくに抱えきれずに溢れているのに、このままの関係でいると言うのが無理な話だったのだ。約2年、この想いに愛着すら湧いていたためお別れするのは少し寂しいが、鶴見が鶴見自身の感情をコントロールできるうちに離れたいと思っていた。だから気持ち悪いと思われてでも距離を置きたかった。
「Aさん?」
ドアを開けて呼びかけた山本の声は、入り組んだ部屋の奥に陣取った鶴見の耳にも届き、鶴見は呼吸を忘れた。
「お、なんや笑 返事くらいしてくださいよ笑」
迷路のような棚の森を歩いて、山本は鶴見の前に姿を現した。こうやって笑いかけてくれるのはこれが最後だろうか。サラサラとした前髪が目にかかって、色気を醸し出している。その前髪の一本一本まで目に焼き付けようと見つめる鶴見の熱い視線にただならぬ雰囲気を感じ取り、山本もまた鼓動を早めた。
「あのさ、」
「はい。」
「………………………すき。」
切り出してから本題まで、永遠とも感じる時間を経て搾り出した子供のような捻りのない想いは、蚊のような小ささで。しかし静まり返った埃舞う空気を伝って山本の鼓膜を確かに震わせた。大きく開いた瞳、頻りに繰り返される瞬きを見て、愛おしさが体の底から溢れ出す。と同時に山本との関係が終わったと気が遠くなる。
「じ、冗談!ジョーク!!!」
貼り付けた笑顔の裏で鶴見は自分が嫌になった。ダメだった。また逃げてしまう。やっぱり友人でも先輩後輩でもいいから、そばにいたい。そう思って咄嗟に口走った言葉に、山本はぴくりとも表情を動かさず、真剣に受け止めてくれているのだろうか。傷つけない返事を考えているのだろうか。いつものように笑って揶揄ってくれた方がまだマシだった。
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フジ(プロフ) - もぴさん» ありがとうございます!何度も読んでいただけているの、とっても嬉しいです!!!繁忙期とストック不足が重なって少しずつの更新になってしまいますが、完結目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いします! (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 天翔*さん» 2人の気持ちが再会できてよかったです笑 これからも天翔*さんの展開を想像しながら気長にお待ちいただけたら嬉しいです! (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
もぴ(プロフ) - 何度も読み返している大好きなお話です!この先の更新も楽しみにしています! (11月9日 20時) (レス) id: 14fd480e3d (このIDを非表示/違反報告)
天翔*(プロフ) - もう本当にこの展開を待ってました。最高すぎます… (11月8日 19時) (レス) @page30 id: 0e0fd021ce (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 大津さん» ありがとうございます!もう最後までストーリーは決まっているのですが、期待に応えられるような展開になっているかドキドキです笑 これからもよろしくお願いしますー! (10月29日 22時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pH | 作成日時:2023年9月19日 18時