漆黒 ページ40
「あーっす。」
「おつかれーい。」
オフの日の練習終わり、駐車場へ続くドアを開け、チームメイトと挨拶を交わす。すっかり癖になってしまった鶴見の車探し。視線を彷徨わせ、真っ黒なボディともう覚えてしまったナンバーを見つける。運転席でスマホをいじる鶴見に駆け寄って窓をノックすると、驚いた顔をした鶴見が窓を開けて柔らかい笑顔で笑った。
「亮、おつかれさまー。」
「おつかれさまです。あの、今日飯どうすか?」
「あー…今日はちょっと、」
断ろうとする鶴見の視線は石川から逸れて背後を見つめ、口元が緩む。振り返って同じ方向に視線を向けると、ゆったりと歩く山本が手を振っている。
「ごめん。由伸と約束してるから。」
山本を指しながら笑う鶴見に、石川は頷いた。
「…わかりました。また。」
「Aさんお待たせしました。…何話してたん?」
鶴見と自分の顔を交互に見る山本に嫉妬の念を感じて苦笑いする石川に、山本は不思議そうに眉間の皺を深めた。
「顰めっ面すんな笑」
「ご飯行こって!今日は由伸くんと予定あるって断られたから!」
「…そういうこと。ほら早く。」
問い詰めようと口を開いた山本に石川が明るく事実を伝えると、鶴見は手招きをして早く車に乗るように促す。
「当たり前。約束してたんやから。」
「はいはい、…それじゃ。」
「はい。また明日。」
山本が荷物を積む間、なんとなく気まずい2人だけの時間がが流れる。最も石川がそう感じているだけかもしれないが。山本が助手席に乗り込み、エンジンがかかるのと同時に石川は2、3歩車から距離をとった。手を振る鶴見の向こうにはこちらを覗き込む山本。
「明日も頑張ろーね。」
「はい。」
「石川さんお疲れ様でしたー」
「おつかれー」
走り去る車に手を振り、見えなくなったところで地面に置いたバッグを掴む。なんともいえない虚しさが身体中を巡る感覚がして、軽くこめかみを掻いた。いつもより重く感じる鞄を車に積み、車に乗り込む。力なくよろよろと閉じたドアは中途半端な音を立てた。薄らと外の音が響く車内で、エンジンもかけずに石川は呆けた。自分から逸れた途端に緩んだ視線。あの視線が自分に向けられたらどれだけ嬉しいだろうか。先ほどまで鶴見の車が停まっていた場所を見つめる。前に進むも行き止まり、後に引くも底の見えない落とし穴。石川にはどうにもできなかった。
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フジ(プロフ) - もぴさん» ありがとうございます!何度も読んでいただけているの、とっても嬉しいです!!!繁忙期とストック不足が重なって少しずつの更新になってしまいますが、完結目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いします! (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 天翔*さん» 2人の気持ちが再会できてよかったです笑 これからも天翔*さんの展開を想像しながら気長にお待ちいただけたら嬉しいです! (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
もぴ(プロフ) - 何度も読み返している大好きなお話です!この先の更新も楽しみにしています! (11月9日 20時) (レス) id: 14fd480e3d (このIDを非表示/違反報告)
天翔*(プロフ) - もう本当にこの展開を待ってました。最高すぎます… (11月8日 19時) (レス) @page30 id: 0e0fd021ce (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 大津さん» ありがとうございます!もう最後までストーリーは決まっているのですが、期待に応えられるような展開になっているかドキドキです笑 これからもよろしくお願いしますー! (10月29日 22時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pH | 作成日時:2023年9月19日 18時