検索窓
今日:30 hit、昨日:30 hit、合計:132,852 hit

赫赫 ページ34

WBC決勝。鶴見はその身をマイアミに置いていた。選手の招待席ブロックの最後列に座り、観戦する。この日の前日、ロングリリーフで3回3分の1を投げた山本は軽いウォーミングアップを終え、ダグアウトへ入る直前にその姿を見つけ手を振った。鶴見の周りでは黄色い歓声が上がる。球場のボルテージが最高潮に達し、試合が始まった。日本は村上、岡本のホームランなどで3点を取り、9回裏。

「………すげぇ」

こういうのをスターというのだろう。9回裏ツーアウト、ここを抑えれば優勝という場面で大谷とトラウトの対戦。作り話のような展開が目の前で繰り広げられている。球場中が息を飲むこのシーンで、鶴見は何故だか冷静で、マウンドの大谷を信じていた。フルカウントからの6球目。トラウトのフルスイングは空を切った。

『空振り三振ー!大谷が!グラブを投げた!歓喜の渦!マイアミに、嬉しい桜が咲きましたー!侍ジャパン!世界一奪還!』

ダグアウトから駆け出す侍たちの中に山本を見つけ、表情が緩む。マウンド上で仲間たちと喜びを分かち合う山本の姿は、鶴見の心を強く揺さぶった。グラウンドへの扉が開かれ、選手の家族や友人が喜びを倍増させる。

「Aさん!」

「由伸。」

一番に駆け寄って来た山本によくやったと、頭をぐしゃっと撫でると年相応の青年の満面の笑みが覗く。やっと言葉を交わせたと思ったのも束の間、最強投手はインタビューへと駆り出された。山本がいない間、鶴見は集まって来たオリックス投手陣とハグをして健闘を讃える。ダルビッシュには挨拶するのも烏滸がましいと黙っていたが、相手から出向いてくれてぺこぺこしてしまった。グラウンドを見回す中、ぬっと顔を出したのは岡本だった。

「A、来てたんや。」

「ナイスホームラン。かっこよかったわ。」

「由伸に殺されそう。」

揶揄って言う頬を人差し指で一突きすると、その巨体に似合わず、岡本は態とらしくよろけた。

「誰にも言わなかったんだ。」

「言わないでって言われたんで。」

「ありがとう。そんでおめでとう。」

その馬鹿正直さにまた救われたと感謝を述べて握手をした後、岡本は手を振りながら奥さんの元へ戻って行った。1人で立っていると、続々と他球団の後輩が挨拶に集まり、いつの間にか輪ができていた。

「目立ってしょうがないからほら!散れ!笑」

盛り上がる声を跳ね返して笑いながら手を振ると、侍たちは手を振り返し、名残惜しそうに方々へ散って行った。






胡乱→←桎梏



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (206 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
664人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

フジ(プロフ) - もぴさん» ありがとうございます!何度も読んでいただけているの、とっても嬉しいです!!!繁忙期とストック不足が重なって少しずつの更新になってしまいますが、完結目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いします! (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 天翔*さん» 2人の気持ちが再会できてよかったです笑 これからも天翔*さんの展開を想像しながら気長にお待ちいただけたら嬉しいです! (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
もぴ(プロフ) - 何度も読み返している大好きなお話です!この先の更新も楽しみにしています! (11月9日 20時) (レス) id: 14fd480e3d (このIDを非表示/違反報告)
天翔*(プロフ) - もう本当にこの展開を待ってました。最高すぎます… (11月8日 19時) (レス) @page30 id: 0e0fd021ce (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 大津さん» ありがとうございます!もう最後までストーリーは決まっているのですが、期待に応えられるような展開になっているかドキドキです笑 これからもよろしくお願いしますー! (10月29日 22時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:pH | 作成日時:2023年9月19日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。