桎梏 ページ33
「来なかったらどうするつもりだったの。」
「来るよ。……来たやん。だってAさんは俺のことが好きだから。」
喉乾いたー、と立ち上がった山本に続いて身を起こす。水を注ぐ背中に、少し意地悪をしてやろうと投げかけた質問は呆気なく往なされてしまった。よく謙虚だと言われるがどこが謙虚だ。目の前には自信満々の微笑みを見せながら振り返る山本がいて、鶴見もやはりこいつには敵わないと静かに笑った。
「溢すぞ」
「あぶなー笑」
「ちゃんと見てろよ笑」
グラスを手渡され、治らない笑いを堪えて喉を潤す。飲み干してからグラスをテーブルに置き、上着を手にして立ち上がった。
「もう行っちゃうんですか。」
「泊まれないからなぁ……帰るよ。」
「寂しそうですけど。」
「そうだね。……寂しい、かな。」
珍しく素直になりたい気分だっただけ。そんなことはわかるが、それでも鶴見が自分の気持ちを真正面から伝えてくれるのは、あの日の告白以来かと言うほどくらいレアで、山本は生唾を飲んだ。野球で培った冷静さでドアへ歩む鶴見に並ぶ。行きに被せられたジャージは宮城の手に返っており、帰りは山本のジャージを被った。エレベーターを待つ2人の間には沈黙が広がり、しかし2人の手はしっかりと繋がっていた。
「由伸待ってー？……あれ？……A？！」
エレベーターに乗り込む寸前で乗り込もうとして来た岡本に驚き、顔を上げた鶴見にまた岡本は驚いた。困惑しながら乗り込もうとして来た岡本に蹴りを入れて押し出し、笑いながらボタンを連打する。謎に頷いてこれ以上乗り込もうとしなかった岡本に感謝する鶴見を乗せてエレベーターが動き出した。1階に着く直前で2階に止まったエレベーターに、鶴見が解こうとした手を山本は楽しそうな笑顔で強く握り込む。押し間違えか、幸いにも誰かが乗り込んでくることはなかったが、扉が閉まると大笑いの山本の額にデコピンを食らわせた。ホテルの外に出るとひんやりとした空気が一層別れを惜しくする。ドアが開かれたタクシーの前、振り返った鶴見は口を開いた。
「あとさ、」
「はい。」
「会えなくてもいいから、由伸の目の届くところにーみたいなこと言ってたけど、………俺は、会いたい、…って、思ってたよ。」
運転手に聞こえないように囁き声で告げた声が澄んだ空気を伝って山本に届く。
「これからも、よろしく。」
その一言と温もりを携えたジャージを残して鶴見はタクシーに乗り込んだ。
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フジ(プロフ) - もぴさん» ありがとうございます！何度も読んでいただけているの、とっても嬉しいです！！！繁忙期とストック不足が重なって少しずつの更新になってしまいますが、完結目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いします！ (11月13日 19時) (
レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 天翔＊さん» 2人の気持ちが再会できてよかったです笑 これからも天翔＊さんの展開を想像しながら気長にお待ちいただけたら嬉しいです！ (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
もぴ(プロフ) - 何度も読み返している大好きなお話です！この先の更新も楽しみにしています！ (11月9日 20時) (レス) id: 14fd480e3d (このIDを非表示/違反報告)
天翔＊(プロフ) - もう本当にこの展開を待ってました。最高すぎます… (11月8日 19時) (レス) @page30 id: 0e0fd021ce (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 大津さん» ありがとうございます！もう最後までストーリーは決まっているのですが、期待に応えられるような展開になっているかドキドキです笑 これからもよろしくお願いしますー！ (10月29日 22時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：pH | 作成日時：2023年9月19日 18時
