徒跣 ページ31
ホテルに到着し、ロビーに入ると、奥の方でマスコットフォルムの小僧が立ち上がったのが見えた。
「Aさん！」
それが宮城だとわかると、駆け寄って事情を説明しようとした。
「宮城、あー、えっと、」
「由伸さんでしょ？今回なんか警備すごいんで、俺が連れてってあげます。」
ドヤ顔でグーサインを見せる宮城は、事情も言いたいことも全て理解して待ってくれていたようだ。数ヶ月前までは野球以外ではちんちくりんだったはずの急成長に鶴見の胸は感謝で満ちた。
「ありがとう宮城ぃ…」
宮城は感動している鶴見に侍ジャパンのジャージを被せ、わしゃわしゃと頭を撫でる手を掴んで走り出した。エレベーターで上層階まで上り、廊下に足を踏み出すと、自販機前で談笑する2人の侍を視認する。こちらを見たうちの1人が、驚いた顔で歩みを進め鶴見に抱きついた。片割れの戸郷は目をぱちくりさせていた。
「よ、よしのぶ、」
「Aさん…」
「戸郷くん、まじごめん、」
「あ、いえ。」
きょとんとした顔に謝罪を述べると、戸郷は会釈をしながら冷静に問題ないという様子でピュアに笑ってこれを捨て置いた。
「何で宮城といるの」
「それはまぁ、」
「嫉妬してんすか？むしろ感謝して欲しいくらいですね。」
人目も憚らずに抱きついて首元に顔を埋めて来た山本は嫉妬心を覗かせるが、再度のドヤ顔を披露した宮城には目もくれない。痛いほどの視線を感じた鶴見だが、それに勝って心が満たされて、これをどうすることもできなかった。またいつもの深呼吸が始まるのかと構えた鶴見の首元を、蜂に刺されたような痛みが襲った。
「い"っ……たぁ、ぇ、噛んだ？バカなの？」
山本を離れさせて首を摩り、2人には聞こえないように忍び声を凄ませる。山本はその手を取って廊下を進んでいくが、連れられる鶴見の首元に赤いものを見つけ、戸郷と宮城は顔を見合わせた。
「人の前で何してんすかね。」
「あれって、本当だったの？」
呆れる宮城と平然とする戸郷。その質問にそう言えば戸郷もいたんだ、とゆくりなく発つ鳥の後の掃除を任された宮城だったが、廊下の奥で強めの肩パンチをくらっても尚、最近見ることのなかった満面の笑みを浮かべる山本を見て、真実が明かされるのは時間の問題だと悟り、首を縦に振った。
「キスマって知らないんすかね。」
「え？……あぁ、鶴見さんってピュアそうだもんね。」
「20後半すよ？」
「………ピュアじゃ片付けられないかもね笑」
○
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 665人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
フジ(プロフ) - もぴさん» ありがとうございます！何度も読んでいただけているの、とっても嬉しいです！！！繁忙期とストック不足が重なって少しずつの更新になってしまいますが、完結目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いします！ (11月13日 19時) (
レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 天翔＊さん» 2人の気持ちが再会できてよかったです笑 これからも天翔＊さんの展開を想像しながら気長にお待ちいただけたら嬉しいです！ (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
もぴ(プロフ) - 何度も読み返している大好きなお話です！この先の更新も楽しみにしています！ (11月9日 20時) (レス) id: 14fd480e3d (このIDを非表示/違反報告)
天翔＊(プロフ) - もう本当にこの展開を待ってました。最高すぎます… (11月8日 19時) (レス) @page30 id: 0e0fd021ce (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 大津さん» ありがとうございます！もう最後までストーリーは決まっているのですが、期待に応えられるような展開になっているかドキドキです笑 これからもよろしくお願いしますー！ (10月29日 22時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：pH | 作成日時：2023年9月19日 18時
