齷齪 ページ30
侍ジャパン壮行試合、対阪神タイガース。来るなら挨拶していけば?と言った栗山の誘いを断り、上段の端に身を置いた。久しぶりに電車で京セラドームへ来たが、どこもかしこも山本との思い出に溢れていて、流石に笑ってしまう。よく知る店で美味しいものを鱈腹食べて観戦に備え、懐かしい気持ちを覚えながら球場を歩いた。
結果は4-8、侍ジャパンが勝った。大谷の二度のスリーランホームランなどでリードを取っての勝利。しかし山本は近本にソロホームランを浴びるなど、3回4失点で降板した。興奮冷めやらぬ人の波に流されながら帰路につく。久しぶりの歓声に囲まれて流石に疲れたのか、帰宅早々ソファーに傾れ込み、目を瞑った。マウンドの上、遠く離れていたはずの山本の表情がくっきりと頭に焼きついて離れなかった。
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そのまま寝落ちしてしまっていたらしい鶴見はスマホの着信音で目を覚ます。一瞬躊躇して、深呼吸のあと緑の丸に触れた。
「もしもし、どした?」
「……………」
電話の向こう側からは何も聞こえず、鶴見は不思議に思ってスマホを見直す。画面の数字はカウントアップしていて、電話が正常に繋がっているのを示している。再度耳に近づけ呼びかけようとすると、山本の声がやっと聞こえた。
「……会いたい、」
「…………」
「やっぱり会いたいです。」
久しぶりに聞く声は耳元で篭って響き、鼓動が早まるのを感じる。拒む言葉を探して何も言えない鶴見と長い沈黙を残して、電話は切れた。行くしかないと腹を括り、寝癖のついた頭を掻いて上着と携帯、財布、鍵を掻き集めて家を出る。大通りに出てタクシーを拾ってから由伸が今どこにいるのか知らないことに気づいた。自宅か、ホテルか。捕まえたタクシーに謝罪して出てもらい、山本に電話をかけるが電子音が響くだけで話が進まない。宮城の連絡先を探してかけると、ガヤガヤとしたBGMの次に、もしもしの応答が聞こえた。
「宮城?!」
「Aさん?どうしました?」
「今どこにいる?!」
「え、ホテルっす。」
「どこの?!由伸そこいる?!」
「ちょちょ、落ち着いてください、」
間を取ってもらって一度深呼吸をした鶴見に、宮城はホテル名を告げた。再度捕まえたタクシーに乗り込み、行き先を指定する。道中、行ったところで山本の部屋まで辿り着けるのか、降りて来て貰えばいいか、いや電話でねえんだった、と頭の中は全く落ち着かなかった。
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フジ(プロフ) - もぴさん» ありがとうございます!何度も読んでいただけているの、とっても嬉しいです!!!繁忙期とストック不足が重なって少しずつの更新になってしまいますが、完結目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いします! (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 天翔*さん» 2人の気持ちが再会できてよかったです笑 これからも天翔*さんの展開を想像しながら気長にお待ちいただけたら嬉しいです! (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
もぴ(プロフ) - 何度も読み返している大好きなお話です!この先の更新も楽しみにしています! (11月9日 20時) (レス) id: 14fd480e3d (このIDを非表示/違反報告)
天翔*(プロフ) - もう本当にこの展開を待ってました。最高すぎます… (11月8日 19時) (レス) @page30 id: 0e0fd021ce (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 大津さん» ありがとうございます!もう最後までストーリーは決まっているのですが、期待に応えられるような展開になっているかドキドキです笑 これからもよろしくお願いしますー! (10月29日 22時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pH | 作成日時:2023年9月19日 18時