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形代 ページ26

「……こっちおいで。」

「一旦座り。な?」

棒立ちの鶴見は促されてベンチに座り、それを挟んで2人も腰を下ろす。静かに涙を溢す鶴見の頭をがっしりとした山田の手が撫で、近藤は遠くを見て何も言わなかった。

「俺っ、どうしたらよかったんでしょう…みんなのためにと思ってしたことが、みんなを苦しめるなんて思わなくて、」

「辛かったなぁ、ごめんな、気づけなくて。」

背中に添えられた近藤の手にまた涙が溢れる。本当は誰かに寄りかかりたかった。本音をぶちまけてしまいたかった。でも一度それをしたら溜め込んだ思いが止まらなくなりそうだったからしなかった。自分で決めたことに弱音を吐きたくなかった。なのに運悪く出会したのは所属当時からずっと甘えさせてくれていた2人で、抑え込んでいた感情が次から次に解放されていく。

「………みんなは裏を知ってるけど、世間では、表が全てなんですよ。」

「悪いことはなんもしてない。報道の中の表のAも、ただ恋しただけやんか。」

近藤と山田は、視線を合わせてその通り、うんうんと大袈裟なまでに大きく頷いて鶴見を見た。

「表しか知らない世の中だったとしても、堂々としてたらいいじゃない。それで後ろ指刺す奴らは放っておけばいいよ。」

いつもちょけている2人だが、どんな言葉にも説得力が増す気がする。自分でも舐めた態度を取っていたとは今更ながらに思うが、それでもやはり尊敬し、頼りにしてたんだと思い知らされた。



『あいつ、Aさんのことなんだかんだでめちゃ尊敬してるんで。』



紅林の声を頭で反芻する。宮城も同じような気持ちだったのだろうか。もし宮城の立場だったら、中川の立場だったら。鶴見も、はいそうですかと聞き分けよくいられなかったかもしれない。

「気にしなくていい。今は自分のことだけ考えな。」

「俺たちは、何があっても味方ってことだけ、覚えときよ」

「………はい。…ふふっ、ありがとうございます笑」

「笑ったな?!もう元気やな?!」

「はい笑」

先ほどまでの頼れる先輩は消え失せ、大きく笑った近藤は、人騒がせなやつや!と鶴見の濡れた頬をゴシゴシと手荒く拭った。

「いつでも電話しておいで笑」

「のぶさんあざます!!!やっぱり頼りになるなぁ!笑」

「バカにしてるやろ笑」

「んなことないっす笑」

真っ赤な顔に笑みを湛え、会釈をして手を振りながらロッカールームを出る。その出口で咄嗟に隠れた影を知らぬまま、鶴見は歩みを進めた。








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フジ(プロフ) - もぴさん» ありがとうございます!何度も読んでいただけているの、とっても嬉しいです!!!繁忙期とストック不足が重なって少しずつの更新になってしまいますが、完結目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いします! (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 天翔*さん» 2人の気持ちが再会できてよかったです笑 これからも天翔*さんの展開を想像しながら気長にお待ちいただけたら嬉しいです! (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
もぴ(プロフ) - 何度も読み返している大好きなお話です!この先の更新も楽しみにしています! (11月9日 20時) (レス) id: 14fd480e3d (このIDを非表示/違反報告)
天翔*(プロフ) - もう本当にこの展開を待ってました。最高すぎます… (11月8日 19時) (レス) @page30 id: 0e0fd021ce (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 大津さん» ありがとうございます!もう最後までストーリーは決まっているのですが、期待に応えられるような展開になっているかドキドキです笑 これからもよろしくお願いしますー! (10月29日 22時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:pH | 作成日時:2023年9月19日 18時

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