蓬生 ページ25
遠くに山本を見つけた森はポケットに手を突っ込み、預かり受けたネックレスを取り出して掌で眺めた。練習中も気になって仕方ないくらいの存在感に、どうにかしろと仰せつかったような気がしていた。山本の前に、鶴見にされたようにネックレスをぶら下げる。
「お、どこにあったんすか！探してたやつや笑」
「鶴見さんから。」
「………え…」
「拾ったから届けといてくれって。」
山本にその名前はタブーです、とでも言いたそうに天を仰いだり目を丸くしたりする周囲は目に入っていたが、キャッチャーらしからぬKYを装い、森は2人の関係など知らないと、蚊帳の外の特権を使って山本を刺激した。
「でもあれやな。2人めっちゃ仲良さげやったからさ。」
「………」
山本は渡されたネックレスを見つめて、何も言わずに握りしめた。
「…ネックレス、ありがとうございました。」
「拾ったん俺やないし。俺鶴見さんの連絡先知らんから、お礼言うなら自分でな。」
「…避けてるのは、Aさんの方ですよ」
山本は受け取ったネックレスを首に回して付け、大きく深呼吸をした。森が見ていた2人の様子、あの時話しかけたのは鶴見の方で、そっけない態度を取ったのは山本。のはずなのに、山本の言葉を聞いて、森の中では更に不透明な靄がかかってしまった。
────────────
助けてくれたお礼もほどほどに中川とは別れ、赤くなっているであろう目を隠すため、俯きながら廊下を進む。誘われたとはいえ、のこのこ来ては泣くなんて、不甲斐なくてまた別の涙が溢れる。誰にも、特に自分が主導権を握ることのできない先輩にはなるべく会いたくなかったのに、逃げるように球場を去ろうとした鶴見を神様は見逃さなかった。
「おっ……と、」
早歩きでぶつかった人は強い衝撃にもブレることなく、鶴見を受け止めて肩に手をかけた。
「大丈夫ですか？…あれ、A？」
「おぉ！来るん今日やったっけ！」
見られまいと顔を背ける鶴見を覗き込む山田とその後ろからいつもの陽気な顔を出す近藤は黙ったままの顔から垂れた雫を見逃さなかった。お互いに顔を見合わせて、何があったと眉を顰める近藤に、山田は首を横に振った。
「お疲れ様です、」
そう言い残して立ち去ろうとした鶴見を放っておいてはいけないと山田が間一髪腕を掴む。それでも目を見ようとしない鶴見に見兼ねた近藤がもう一方の手を掴み、2人で人の出払ったロッカールームへ引き込んだ。
○
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 665人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
フジ(プロフ) - もぴさん» ありがとうございます！何度も読んでいただけているの、とっても嬉しいです！！！繁忙期とストック不足が重なって少しずつの更新になってしまいますが、完結目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いします！ (11月13日 19時) (
レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 天翔＊さん» 2人の気持ちが再会できてよかったです笑 これからも天翔＊さんの展開を想像しながら気長にお待ちいただけたら嬉しいです！ (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
もぴ(プロフ) - 何度も読み返している大好きなお話です！この先の更新も楽しみにしています！ (11月9日 20時) (レス) id: 14fd480e3d (このIDを非表示/違反報告)
天翔＊(プロフ) - もう本当にこの展開を待ってました。最高すぎます… (11月8日 19時) (レス) @page30 id: 0e0fd021ce (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 大津さん» ありがとうございます！もう最後までストーリーは決まっているのですが、期待に応えられるような展開になっているかドキドキです笑 これからもよろしくお願いしますー！ (10月29日 22時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：pH | 作成日時：2023年9月19日 18時
