表裏 ページ21
春季キャンプ、第二クール。鶴見の身は宮崎にあり、スタジアムに向かっていた。鶴見には退団してから久しぶりの球場だった。何人か鶴見に気づいたらしいファンは後ろ指を指したが、あの会見の事情を知っているチームメイトは、温かく鶴見を迎え入れた。たくさんの声に迎えられ、ダグアウトに挨拶をした後廊下を進んでブルペンへ向かう。懐かしい投手陣と話しながら奥に若月と話す山本を見つけると、鶴見は歩み寄り、声を投げた。
「久しぶり。」
「お、鶴さん。」
「……お久しぶりです。」
嬉しそうな若月とは対照的によそよそしい山本に、鶴見は切り替えて続けた。山本は絶不調だった。特に重圧のないはずの練習でも制球は定まらず、速球も変化球も中途半端。若月から事前にそれを聞いており、心配だったのだ。
「由伸、平気？」
「……俺の問題なんで。」
「…そっか。」
関係ない。そう言われているようで安心した。立ち去る山本の背中を見つめながら若月の隣に座る。
「ごめんね、なんか話してた？」
「いや、大丈夫っす。まあ、最近あれだったんで少し…………なんか、嬉しそうっすね。」
「ん？」
「あいつ、あんな態度なのに。」
「…引きずってられるより忘れられてた方がずっといいよ。」
「…でも、苦しそうっすよ。」
驚いたように若月の方を見る鶴見はその意味がわかると笑った。
「ははっ、さすがキャッチャー。よく見てるねー」
「なんでそんな由伸ファーストなんすかね、」
「………」
「由伸も、別に忘れたわけじゃないと思いますよ。考えないようにしてるだけで。」
「…近々、飯でも行こーね」
はぐらかして立ち上がる鶴見を逃すまいと若月も後を追う。
「じゃあ焼肉で！」
「いいねぇ、健矢の奢りね」
「いつも奢ってくれてたのに」
「えぇー？だって俺今無職だもん笑」
鶴見は笑っている。この笑顔を信じていいのか、と若月は鶴見と並んで歩くが、奥に下がったはずの山本はその様子を見ていた。制球が定まらない。ストレートの球速も変化球の変化量も質が下がっている。上手くいかないことへの焦り、その理由はわかっているはずなのに、解決はできない。振り切ろうとすれば振り切ろうとするほど、自分の中で鶴見の存在がどれだけ大きかったのかを自覚していく。
「大丈夫かよあいつ」
「んー大丈夫ではなさそうだけど」
フェンス際で固まっていた小木田世代は笑顔の鶴見とぼーっとする山本を観察しながら、キャッチボールを始めた。
○
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 665人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
フジ(プロフ) - もぴさん» ありがとうございます！何度も読んでいただけているの、とっても嬉しいです！！！繁忙期とストック不足が重なって少しずつの更新になってしまいますが、完結目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いします！ (11月13日 19時) (
レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 天翔＊さん» 2人の気持ちが再会できてよかったです笑 これからも天翔＊さんの展開を想像しながら気長にお待ちいただけたら嬉しいです！ (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
もぴ(プロフ) - 何度も読み返している大好きなお話です！この先の更新も楽しみにしています！ (11月9日 20時) (レス) id: 14fd480e3d (このIDを非表示/違反報告)
天翔＊(プロフ) - もう本当にこの展開を待ってました。最高すぎます… (11月8日 19時) (レス) @page30 id: 0e0fd021ce (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 大津さん» ありがとうございます！もう最後までストーリーは決まっているのですが、期待に応えられるような展開になっているかドキドキです笑 これからもよろしくお願いしますー！ (10月29日 22時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：pH | 作成日時：2023年9月19日 18時
