幻月 ページ20
春季キャンプが始まり、新加入の選手もいるとは言え、いつもの見慣れた顔ぶれが揃う。新たな捕手仲間となる森や石川に改めて挨拶を済ませてキャッチボールをする若月は、隅の方でストレッチをする山本から目が離せなかった。あんなことがあって、久しぶりに会うのだ。心身ともに調子を崩してなければいいと、心配が募り、キャッチボールを早々に引き上げて山本の元へ歩み寄った。
「由伸。」
「若月さん、久しぶりです。」
「久しぶり。………鶴さんのこと、」
「その話はやめましょう。」
もう終わったことですから、と微笑む山本だが、変に丁寧な言葉遣いに、何かおかしいことは想像に易かった。若月には言っておかなくてはならないことがあった。
「由伸のためを思ってのことだよ。」
「だから、……」
「ん…？」
山本が呟いた声は不鮮明で、若月は聞き返したが、その後に続いた言葉は意外なものだった。
「だから嫌なんです。」
「ぇ、」
「野球をやめるくらいなら、俺なんて捨てて欲しかった。」
自分も佐浪を選んで野球を辞めようとしたくせに、と身勝手な望みに山本は自身を嘲う。山本が野球をする理由は自分の姿が鶴見に届いていることを願っているから。そして鶴見が託した野球人としての人生を全うするため。忘れさせない。俺がAさんの分まで。切り替えたはずの心にはまだまだ鶴見の影がこびりついて離れない。もう叶わない悲痛な言葉。グラブを持って立ち上がった山本を若月は何も言えずに見送った。
「どうするかな、」
ノートを開きながら近くにいた齋藤が独り言ちたのを若月は聞いた。その呟きのベクトルが何を指すのかはわからなかったが、ずっと言いたいことを言うなら今だと口を開く。
「…いたんですか？由伸と鶴さんが事務所に呼ばれた日。」
「…いたよ。」
「こうなるって思わなかったですか？」
「……Aも俺も由伸を守ることに必死だった。」
「だとしたら……2人とも由伸のこと何もわかってないっすね。」
若月はこの事態を招いた首脳陣やフロントに怒りの気持ちがあった。山本がやられてしまうというのはもちろんだが、若月はまだ鶴見の球を受けていたかったのだ。いつもはリードする立場の若月が、その余裕と強さに甘えて唯一リードされるピッチャー。それが鶴見だった。反感を買うのは覚悟して発した言葉だったが、予想に反して齋藤は若月の言葉をただ受け取り、考え込んだ表情でダグアウトへ歩いて行った。
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フジ(プロフ) - もぴさん» ありがとうございます！何度も読んでいただけているの、とっても嬉しいです！！！繁忙期とストック不足が重なって少しずつの更新になってしまいますが、完結目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いします！ (11月13日 19時) (
レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 天翔＊さん» 2人の気持ちが再会できてよかったです笑 これからも天翔＊さんの展開を想像しながら気長にお待ちいただけたら嬉しいです！ (11月13日 19時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
もぴ(プロフ) - 何度も読み返している大好きなお話です！この先の更新も楽しみにしています！ (11月9日 20時) (レス) id: 14fd480e3d (このIDを非表示/違反報告)
天翔＊(プロフ) - もう本当にこの展開を待ってました。最高すぎます… (11月8日 19時) (レス) @page30 id: 0e0fd021ce (このIDを非表示/違反報告)
フジ(プロフ) - 大津さん» ありがとうございます！もう最後までストーリーは決まっているのですが、期待に応えられるような展開になっているかドキドキです笑 これからもよろしくお願いしますー！ (10月29日 22時) (レス) id: 81470cd1e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：pH | 作成日時：2023年9月19日 18時
