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彼の座る椅子がまた音を立てる。
あのさ、と言いづらそうに口を開いた彼に小さく返事をして、ベッドの中で蹲った。
「……聞いて欲しいんだ、Aに、ちゃんと」
静かに、しかし芯のある声でスマイルが告げる。
瞬間に今までの会話が全てこの話をする為の準備だったのだと分かるくらいには、その言葉はとても重かった。
スマイルの息を吸う音が、やけに鮮明に聞こえた。
「_______俺達で、国を変える」
「………え?」
流石に、そんな事を言われては起き上がらずにはいられない。
突拍子もない、想像もつかないような壮大な話に、私は唖然と目を瞬かせるしかなかった。
「変えるって…どうやって?」
「…最終目標は勿論、現王を殺す事だ。王族の血を白紙に戻して、新たな王を立てる」
「……そんな、こと」
本気だということには、もうとっくに気が付いていた。スマイルがこんな冗談を面白半分で口に出すような人間でないことを、私はよく知っている。
だから、言えなかった。無理だよなんてそんな、未来を折る様な事を、私なんかが言えるはずがない。
「放っておいてもいずれ他国に負かされる。内から崩されるか外から崩されるかの違いだ、そう変わんないだろ」
「……それは…分かんない、けど」
「…まあ、とにかくだ」
スマイルはそう言って私を見つめると、椅子から立ち上がる。
爛々と輝くアメジストを見上げ、私は思わず呆然とした。
……いつからこんなに、逞しかっただろうか。こんなに、頼もしかっただろう。
「…あいつらと、ここをお前が怖がらなくていい国にしてみせる。絶対だ」
「……うん」
「だから、少しずつでいい。俺が傍にいる時だけでいいから…外に、出てみないか」
このままじゃお前が先に死ぬぞ、とそう言って、彼は私の手を取る。
「それに、俺がお前を置いてどこかに行く訳ないだろ」
ああ、そうか。
立ち止まるなんて選択肢を、彼はきっと持ち合わせていない。しかし、私を置いて行くという選択肢もまた、彼の中にはないのだろう。
有難いことに、こうしてずっと手を離さないでいてくれるのだ。
「…ありがとう、スマイル」
手を握り返しながら被っていた布団を除けると、彼は安堵したように息を吐いて笑む。
______どれだけかかってもいい。どれだけ遠い未来だって構わない。
だからいつか、何にも怯えずに彼の隣を歩ける日が来ればいいなと、そう思った。
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あいら - ありがとうございました!引くほど鬼リピします! (2021年12月7日 23時) (レス) @page39 id: 508c9e96c0 (このIDを非表示/違反報告)
つきりと - 長い間お疲れさまでした…!いつも楽しみに読ませてもらいました!!長編小説のほうも大好きです!!これからも応援してます! (2021年11月24日 14時) (レス) @page39 id: 91c51e0192 (このIDを非表示/違反報告)
あみだくじです(プロフ) - まめこさん» あっありがとうございます…!!!!! (2021年9月26日 9時) (レス) id: fe4eb2c8c6 (このIDを非表示/違反報告)
音夢nemu(プロフ) - まめこさん» ありがとうございます、、、!! (2021年9月25日 23時) (レス) id: 927429c6cf (このIDを非表示/違反報告)
まめこ(プロフ) - あみだくじですさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます…!!リクエスト承りました、お待たせしてしまうとは思いますが必ず書かせていただきます🙇♀️ (2021年9月25日 23時) (レス) id: 17312d353f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まめこ | 作成日時:2021年7月9日 22時