俎上の魚【shk】 ページ23
.
「水族館とかマジで久しぶりじゃね?」
「ほんといつぶりだろ…」
付き合ってすぐに1回行ったよねと首を傾げると、そういえば行ったなと彼が頷く。
久しぶりすぎて館内が変わったのかどうかすらも分からないまま、きょろきょろと辺りを見渡しながら私達は並んで歩き出した。
くらげや小さい魚たちの水槽を見ながら先へ進むと、少し開けた場所にイルカショーの予定開始時間が映し出されたパネルがあった。
しかしどうやら次までかなり時間が空くようで、1分程の話し合いの末、帰る前に見ようとイルカショーは一度スルーする事に。
そうして写真を撮りながら順路通りに足を進めていれば、辿り着いたのは大水槽の前だった。
分厚いガラス越しに游ぐ大小様々な魚達の姿は、ここへ来なければ見られないものだろう。
「わ〜!すごい…!」
「あっ、おい!」
思わず声を上げて彼の手を引く。楽しそうに水槽に張り付く子供達の一歩後ろで立ち止まると、子供か、と彼が隣で笑った。
「写真撮る?」
「え、シャークんも一緒に撮ろうよ」
「いや俺はいいからさ」
俺がA撮りたい、と彼はそう言って私にスマホを向ける。
じゃあせっかくだしと1枚撮って貰えば、彼はいつだったか私が教えたアプリでちゃんと撮ってくれたらしい。
画面にはフィルターがかかって少しだけ盛れた私の姿。何となくちらりと見上げると、どこか満足そうな表情で彼は撮れた写真を見つめていた。
「……可愛い?」
「うん。いや、別にノーマルカメラで撮っても可愛いけど」
「え〜なんでそういう事言うの…」
ずるい。前までは恥ずかしがって何も言おうとしなかったくせに。
楽しそうにケラケラと笑いながら彼はスマホを仕舞い、ふと私の手を取った。
「っ、しゃ、」
「いいじゃん。どうせカップルだらけなんだし?」
骨ばった、細くもしっかりした男らしい手。いつもなら私が先にこの手を引いているはずなのに、どうして私は彼に恋人繋ぎを促されてドキドキしているのか。
悪戯な笑みを浮かべた彼をじとりと睨むが、しかしそれすらも怖くないけどと一蹴されてしまった。
「……ずるい、今日」
「いつも先にずるい事してくんのAだろ」
ぎゅっと手を握られて、いつもなら何ともないはずの胸が音を鳴らす。
目の前を優雅に泳いでいく名前も知らない魚に、今回はお前の負けだなと笑われているような気がした。
739人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「WT」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あいら - ありがとうございました!引くほど鬼リピします! (2021年12月7日 23時) (レス) @page39 id: 508c9e96c0 (このIDを非表示/違反報告)
つきりと - 長い間お疲れさまでした…!いつも楽しみに読ませてもらいました!!長編小説のほうも大好きです!!これからも応援してます! (2021年11月24日 14時) (レス) @page39 id: 91c51e0192 (このIDを非表示/違反報告)
あみだくじです(プロフ) - まめこさん» あっありがとうございます…!!!!! (2021年9月26日 9時) (レス) id: fe4eb2c8c6 (このIDを非表示/違反報告)
音夢nemu(プロフ) - まめこさん» ありがとうございます、、、!! (2021年9月25日 23時) (レス) id: 927429c6cf (このIDを非表示/違反報告)
まめこ(プロフ) - あみだくじですさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます…!!リクエスト承りました、お待たせしてしまうとは思いますが必ず書かせていただきます🙇♀️ (2021年9月25日 23時) (レス) id: 17312d353f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まめこ | 作成日時:2021年7月9日 22時