青空のワンカット【kn】 ページ22
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やるべき事を終えて、漸く私にも休憩の時間が回ってきた。
普段の練習ならばさして仕事もないが、練習試合ともなればそれはもう朝から忙しい。本当にテニス部マネージャーを舐めていた。
その上_______今日は嬉しくないおまけつきだ。
「え、どれ?どの先輩?」
「ほらあの黒髪ストレートのさ、いかにも爽やか!って感じの!」
そこそこ実力のある他校の生徒が来ているからか、今日はギャラリーがいつもより多いのだ。
え、ほんとにかっこいいんだけど!などとお喋りに花を咲かせるその女子生徒達を網越しにちらりと見て、私は端のベンチに腰かける。
…少しため息をつくくらい許して欲しい。多分ものすごく寛容な方だと思うし、かなり我慢してるし。
きゃあと黄色い声が上がって、思わず手に持った水筒を握りしめてしまった。だって、だってさ。
「あ、こっち見てる…!」
だってその"いかにも爽やかなかっこいい先輩"の彼女、私なんですけど…!!!
彼女達は間違いなく1年生で、マネージャーの私が彼、きんときと付き合っている事は多分知らない________いや、知っていて嫌味を言ってくる人もいるけど、今回は本気で悪気がないタイプだ。
悪気があるタイプと何度もエンカウントしただけあってそこの見分けはつく。まあ、悪気があってもなくても良い気はしないけど。
てかなんで噂されてるって分かってそっち見ちゃうの?と彼の方へは決して視線を向けないようにしつつ、水筒を更に握り締める。
いや、きんときのせいじゃないって、分かってはいる。けど。
「A」
「えっ、あ、きんとき…」
「ずっと見てたのに全然こっち向かないじゃん」
俺頑張ったのになぁときんときが私の前に屈みながら笑う。
…あれ、彼女達の言っていた「こっち見てる」は、もしかしなくても。
「ちゃ、ちゃんと見てたよ!今日全勝でしょ」
「…かっこよかった?」
「?うん。かっこよかったよ」
それはもちろん。少なくともこんなに沢山ギャラリーが出来るくらいには。
私の返答に酷く満足そうに目を細めると、そっかぁと彼が嬉しそうにはにかむ。
ふと立ち上がった彼のドリンクを持たない方の手が私の頭へ伸び、思わず肩を竦めた。
「…ありがと。これで頑張れそう」
じゃあ戻るね、と手を振って他の部員達の所へ走る彼の背中を唖然と見つめ、撫でられた頭に触れる。
…たぶん、今だけは紛うことなきヒロインだったな、なんて。
静かになったギャラリーを背に、そんなくだらない事を考えていた。
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あいら - ありがとうございました!引くほど鬼リピします! (2021年12月7日 23時) (レス) @page39 id: 508c9e96c0 (このIDを非表示/違反報告)
つきりと - 長い間お疲れさまでした…!いつも楽しみに読ませてもらいました!!長編小説のほうも大好きです!!これからも応援してます! (2021年11月24日 14時) (レス) @page39 id: 91c51e0192 (このIDを非表示/違反報告)
あみだくじです(プロフ) - まめこさん» あっありがとうございます…!!!!! (2021年9月26日 9時) (レス) id: fe4eb2c8c6 (このIDを非表示/違反報告)
音夢nemu(プロフ) - まめこさん» ありがとうございます、、、!! (2021年9月25日 23時) (レス) id: 927429c6cf (このIDを非表示/違反報告)
まめこ(プロフ) - あみだくじですさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます…!!リクエスト承りました、お待たせしてしまうとは思いますが必ず書かせていただきます🙇♀️ (2021年9月25日 23時) (レス) id: 17312d353f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まめこ | 作成日時:2021年7月9日 22時