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想うだけ【br】 ページ3

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「あ、Aちゃんじゃん。やっほ〜」
「Broooockくん。今日も借りに来たの?」
「うん。ね、隣いい?」

静かな図書館での別に面白くも何ともない勉強が、特別イベントに昇格する瞬間だ。
快く頷けば彼はやった〜とにこにこ笑いながら隣の席の椅子を引いて、私のノートを覗き込んだ。


「今日も勉強?偉いね」
「まあ…だって受験生だし。嫌でもやらなきゃでしょ」
「あ〜耳が痛い…」

僕も勉強しようかな…と苦い顔をしてそっと教材を取り出す彼に思わず笑いながら、ノートに視線を戻す。

勉強だけはがむしゃらに頑張ってきたと思う。
ただ、そのおかげで天才だとか、Aなら大丈夫だとか、そんな無責任な言葉をかけられ続ける人生だった。

しかし今は、隣に座る彼が凄いね、偉いね、頑張ってるねと言ってくれるから、それだけでいいかなぁなんて思えてしまうのだ。
……本当に、恋とは恐ろしいものである。


「…ねえ、何時までやる?」
「うーん…7時には帰るよ。暗くなっちゃうし」
「そっか。帰り、家まで送るね」

悪いからいいよと断っても彼は絶対に折れてくれないので、何度目かで遠慮するのは止めた。
気を遣わないでいいのに、とは思うけれど、本音を言うとこう言われる度に内心では引くほど舞い上がってしまう。
と同時に、どうしてこんなに優しいんだろうかと不安に思ったり、しなかったり。

「…じゃあ、お願いしようかな」
「任せて、しっかり護衛するから!」

少し控えめな声がおどけてそんな事を言うので、くすくすとつられて笑ってしまう。
そんな大層な人間じゃない。
ただ彼に思いを寄せている勉強しか取り柄のないつまらない女なのに、彼はなぜか私を舞い上がらせるような事ばかり口にする。

伝えてしまったらどうなるんだろうか、なんてノートの数式をぼんやりと見つめながら考える。

きっと、全て終わってしまう。この楽しい時間は、二度と来ないだろう。
しかし、だったらこのままでいいと願うのを"逃げ"と呼ぶのは余りにも酷いんじゃないだろうか。

辛い思いはしたくない。
でも、ずっと恋していたい。
だって彼の事が好きなのだ。それこそ、もう自分ではどうしようもないくらいに。

静かな図書館で、彼の存在を隣に感じる幸せな時間。
この時だけは叶いもしていない恋が報われている気がして、いっその事この時間が永遠に続けばいいのに、なんて考えてしまう。
眺めていた数式の答えは、まだ出そうになかった。

*→←おねがい!【shk】



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あいら - ありがとうございました!引くほど鬼リピします! (2021年12月7日 23時) (レス) @page39 id: 508c9e96c0 (このIDを非表示/違反報告)
つきりと - 長い間お疲れさまでした…!いつも楽しみに読ませてもらいました!!長編小説のほうも大好きです!!これからも応援してます! (2021年11月24日 14時) (レス) @page39 id: 91c51e0192 (このIDを非表示/違反報告)
あみだくじです(プロフ) - まめこさん» あっありがとうございます…!!!!! (2021年9月26日 9時) (レス) id: fe4eb2c8c6 (このIDを非表示/違反報告)
音夢nemu(プロフ) - まめこさん» ありがとうございます、、、!! (2021年9月25日 23時) (レス) id: 927429c6cf (このIDを非表示/違反報告)
まめこ(プロフ) - あみだくじですさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます…!!リクエスト承りました、お待たせしてしまうとは思いますが必ず書かせていただきます🙇‍♀️ (2021年9月25日 23時) (レス) id: 17312d353f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まめこ | 作成日時:2021年7月9日 22時

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