喧嘩未遂【shk】 ページ17
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多忙とは_______非常に忙しいこと。仕事が多く忙しいこと。また、そのさま。
意味もなく分かりきった単語をWebで検索し、その文章を読んでため息を吐く。
まさに今の彼を指した言葉だと思ったのだ。検索でもしてみれば冷静になれるかなとも思った。
結果、思った通りにはいかなかったけど。
「……A」
「…なに」
「いや…俺、なんかしたかなと思って…」
別に、とぶっきらぼうに返事をしてスマホを背後のソファに投げ出す。いつもなら笑えるテレビも今は何も面白くなくて、意識せず再び漏れた私のため息で部屋の空気が2度くらい下がった気さえした。
斜め後ろ、ソファに座った彼は微動だにしない。おそらく私の態度に面食らっているのだろうが、しかし今の私に優しくもういいよと笑う事など到底出来そうにない。
…ごめん、と彼が弱々しく謝罪を呟いた。
「悪いと思ってないのに謝んないでよ」
感情のまま毒を吐き、少しして漸くやってしまったと後悔する。
少しの間のあとで、先程の彼のようにごめんと小さく謝罪を呟き、耐え切れず膝に顔を埋めた。
お手本のような八つ当たりだ。最低すぎる。
もう一度呟いたごめんは、少し震えていた。
「…あのさ、A」
ふと、彼がソファを降りて隣に座る音と気配がした。近くなった声にそっと顔を上げると彼は私と同じように体育座りをして、同じように膝を抱えていた。
覗き込むように私を見つめる瞳と、目が合う。
「…俺の勘違いだったら恥ずいんだけどさ」
「……うん」
「…もしかして、寂しかった?」
図星。その通り。でも分かってくれたことが何よりとても嬉しかった。
うん、と頷くと同時に目に溜まった涙がぽろ、とこぼれる。泣きそうになっただけで泣くつもりはなかったのにと思えば思うほど視界が滲んで、困ったように笑う彼の顔が歪んで見えた。
「…確かに、時間作れてないくせにAにばっか甘えてた。悪かった」
「う、ん…私も、ごめっ、」
「…あ〜…大丈夫だからほら、泣くなって」
今週の休みはAの行きたい所行こう、と彼はそう言って私の背中を優しく撫でる。その手つきはとてもぎこちなくて、でもそれが彼の精一杯の優しさだと知っているから。
「…ごめんね。ありがと、シャークん」
「……ん。俺も、ごめんな」
そう言って笑い合えば、胸の奥にあったくだらない嫉妬心や不満も、全て溶かされていくような気がした。
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あいら - ありがとうございました!引くほど鬼リピします! (2021年12月7日 23時) (レス) @page39 id: 508c9e96c0 (このIDを非表示/違反報告)
つきりと - 長い間お疲れさまでした…!いつも楽しみに読ませてもらいました!!長編小説のほうも大好きです!!これからも応援してます! (2021年11月24日 14時) (レス) @page39 id: 91c51e0192 (このIDを非表示/違反報告)
あみだくじです(プロフ) - まめこさん» あっありがとうございます…!!!!! (2021年9月26日 9時) (レス) id: fe4eb2c8c6 (このIDを非表示/違反報告)
音夢nemu(プロフ) - まめこさん» ありがとうございます、、、!! (2021年9月25日 23時) (レス) id: 927429c6cf (このIDを非表示/違反報告)
まめこ(プロフ) - あみだくじですさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます…!!リクエスト承りました、お待たせしてしまうとは思いますが必ず書かせていただきます🙇♀️ (2021年9月25日 23時) (レス) id: 17312d353f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まめこ | 作成日時:2021年7月9日 22時