68 ページ22
「引き止めたな……行ってこい。」
荼毘さんはそう言って、名残惜しさが残ったような手で私の頬を1度だけ撫でた。
そのさり気ない1つの仕草はやはり優しく、頬を滑る指が少しだけくすぐったい。
酸欠と羞恥で早くなっていた鼓動に、また拍車が掛かったようだった。
「…ありがとうございます。楽しんできますね！」
私の言葉に荼毘さんが小さく頷いた後で、私は靴を履こうとした。
トガちゃんとのお出かけのことを考えると、それだけで足が軽い。
「あ、待て。」
「……どうしました？」
靴を履いて立ち上がったその時、荼毘さんの呼び止める声に振り返った。
「なるべく広くて人の少ない所には行くな。建物内なら人混みに紛れてる方がいい。それと、ヒーローが見回りしてたら絶対に近づくな。」
「あ、はい……！気をつけます！」
どうやら、荼毘さんは注意喚起をしてくれたようだった。
……常に周りを意識して動いた方がいいだろうか。
「あと。」
さらに付け足すように一言そう言うと、荼毘さんはおもむろにトガちゃんを睨みあげた。
「……その“バカ”がでしゃばろうとしたり、何かしでかしそうになったらお前が引き止めろ。」
「え……。」
その言葉に、私は一瞬驚いてしまったが、その隣でトガちゃんが抗議の声を上げた。
「待ってください！その『バカ』って私のことですか？これでもちゃんと分は弁えてるんですからね！
あと、ちゃんと責任は持ちますので！」
荼毘さんに『バカ』と呼ばれたトガちゃんは、ムスッとした顔でそう言い返した。
だけどそれは一瞬のことで、次の瞬間には、トガちゃんは笑顔に変わっていた。
「まあこんな人ほっといて…早く行きましょう、Aちゃん！怒ってばかりじゃ楽しくないですから。」
「……あ…うん！」
「ふふっ。Aちゃんの初デート、私がもらっちゃうねっ！だから1人でお留守番しててくださいね！」
トガちゃんは、荼毘さんにからかうような笑みを向けると、一足先に外に出ていってしまった。
「はぁ…………なんとでも言え。」
荼毘さんは呆れた顔で、もう姿の見えないトガちゃんに吐き捨てていた。
＿＿＿その瞬間、ふと、荼毘さんと目が合う。
目が合うなり、荼毘さんは優しく笑ってくれた。
「遅くなるなよ？」
「っ……はい！行ってきます…！」
その表情は、何故か胸が温かくなる。
よく晴れた空の下、私は静かにドアを閉めた。
続く (更新停止中)
お気に入り登録で更新通知を受け取ろう
←67
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1301人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
如月 - 荼毘さんかっこよすぎます！続き書いてくれると嬉しいです！(*´∇｀*) (5月15日 21時) (
レス) @page22 id: 144d29d1f5 (このIDを非表示/違反報告)
ふふ - 続きを正座待機。最高かよ!!!! (2023年4月14日 17時) (レス) @page22 id: bc020e7b09 (このIDを非表示/違反報告)
よっすぃ - 続きが見たいです……… (2022年12月16日 7時) (レス) @page5 id: 93ab21d600 (このIDを非表示/違反報告)
檸檬 - 続き…続き…続きｦ… (2022年12月5日 8時) (レス) @page22 id: 1a035e157b (このIDを非表示/違反報告)
かのん - 続き…書いてくれると嬉しいです… (2022年12月4日 20時) (レス) @page22 id: 19794637f9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：刹那カイ | 作成日時：2020年1月19日 20時
