32 ページ34
午前10時＿＿。
ようやく荼毘さんから解放された私は、1人ソファの上に取り残されていた。
そして鏡で自分の首元を確認する。
キスマークがはっきりと2つ。
1つは最初に付けられた首筋の右側に。
もうひとつは見えにくいからという理由で鎖骨付近に付けられた。
(恥ずかしかった…。)
今も変に緊張している。
その後、荼毘さんは満足したのかあっさりと私を放し、別室へ行ってしまった。
……案外気分屋なところがあるのだろうか。
そんなことを考えていたら、静かに背後の扉が開いた。
「出かけてくる。夜までには戻るから、昼飯は適当に済ませろ。」
「えっあの＿＿」
「いい子にな、行ってくる。」
そう言って私の頭を撫でると、またも扉の向こうへと消えてしまった。
1人残された部屋には、テレビの音だけが響く。
なのに異様に静まり返っていた気がした。
(え、いいの……？)
荼毘さんは軟禁している私を1人残して家を空けた。
私が逃げ出す可能性を配慮しなかったのだろうか？
それとも私が逃げ出さないと信じきっている？
……荼毘さんの意図が分からない。
それから私は一応玄関を確認してみた。
しかし、なんの仕掛けもなく玄関はあっさりと開く。差し込む太陽の光が眩しかった。
私は内鍵をかけ直し、ひとまずソファに戻る。
そして顔をしかめながら悶々と考え込んでいた。
(普通なら逃げ出すチャンスだよね？だけど、どっちにしろ帰り方わかんないか…。)
そこで、ふと昨日の荼毘さんの言葉を思い出す。
『ここら辺にまともに人間やってる奴なんていない』『お前にとっちゃこの家で俺と一緒にいるのが1番安全だろうな』
……怖すぎる。
もしここから逃げ出した途端、誰かに＿＿いや、やめよう。考えだけでも恐ろしい。
やはり本当に荼毘さんが1番安全かもしれない。
…だけど、本気で帰りたいなんて思っている自分なんかいなかった。
こんな気持ちは、昨日の私からしたらありえないことだろう。
まだ出会って3日目。
そのたった3日間に様々なことが起きていた。
何度も悲しみと不安に駆られたし、何度も人の体温に触れては頬を染めている。
そしていつしか恐怖は消え失せ、その代わり自分でも理解できない感情が私の中に残っていた。
でも『理解できない』なんて言いながら、本当は少し気づいている。
だけど、その感情に私は名前を付けられない。
心は大きく惑わされていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 831人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユア - はじめまして。すごくお気に入りになりました。更新楽しみにしています(*´`) (2021年8月25日 16時) (
レス) id: ca5ea56c38 (このIDを非表示/違反報告)
刹那カイ(プロフ) - はにか※はにかんさん» コメントありがとうございます！そう言って貰えてとても光栄です！気長に待っていただければ幸いです…！頑張りますね！ (2020年1月19日 16時) (レス) id: a642ec9f2d (このIDを非表示/違反報告)
はにか※はにかん(プロフ) - まって、読んできた中で上位に入るぐらい面白いです！無理せず続き頑張ってください！気長に待ちます！ (2020年1月19日 15時) (レス) id: d702d64ecc (このIDを非表示/違反報告)
刹那カイ(プロフ) - 安里さん» コメントありがとうございます！いい夢見れるんですか！？笑笑嬉しいです！更新スピード上げられるよう頑張ります！！ (2020年1月14日 8時) (レス) id: a642ec9f2d (このIDを非表示/違反報告)
安里(プロフ) - 毎日楽しみにしてます！！いつも寝る前に読むのですが、キュンキュンしすぎて全然寝れますせんでもいい夢見れますありがとうございます！！ (2020年1月13日 23時) (レス) id: 04b0ac31ad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：刹那カイ | 作成日時：2019年11月3日 13時
