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周囲には誰もいない。最期の時を味わおうと、橋の片側に両手をかけてぼんやりと滝を眺める。今までで一番幸せかもしれない。でも、こうしてのんびりしているのが間違いだったのか。
「何してるんですか。」
急に話しかけられた。ハッとして顔を声が聞こえた方に向けると、この世のものとは思えないほどに整った美しい顔の、フードを被った男性がこちらを見ている。ちょうど私の斜め後ろくらいの位置。しばらく何も言えないでいると
「言わないならそれでもいいですけど。」
正直うざったい。今せっかく一人の素晴らしい時間を楽しんでいたのに。
「邪魔しないでもらえますか。私は今から飛び降りるんですよ、ここで。何言われてもこの決意は揺らぎませんからね。」
さも迷惑そうに言ってみる。
「そうですか。なら少しお話ししてみませんか。」
そうですかって何?それから話聞いてた?
「話聞いてました?邪魔しないで、って言ってるの。」
「ええ。聞いていますけど。邪魔はしませんよ。別に止めません。こういう時は止めたほうが悲劇なことを僕はわかっています。」
少し、驚いた。今まで会ったことのないタイプの人間。
「そうですか。でも人がいるところで死にたくないんで、帰ってもらえますか。」
仮に面白そうな人であったとしても、わざわざ私が死ぬところを見ていてもらおうとは思わない。そもそもそうしたらこの人、自’殺幇助で逮捕されるよ。
「あなたの最期の時間、少しだけ僕にくれませんか。」
どうして?何がしたい?
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作者名:漣刹那 | 作成日時:2023年3月22日 12時