喜劇で悲劇の人形劇第五幕【炎炎ノ消防隊】 (ページ7)

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第206話殉職の蟲ページ7

NOside

「お兄ちゃん、大丈夫かな…」

貴『…大丈夫だよ。』

森羅を心配する子供の頭を撫でてそう安心させる。

……そう、大丈夫なはずなのだ。

ここは森羅に取って有利な戦場なのだから。

実際、床や壁、更には天井や柱までもを足場にして森羅は烈火を圧倒している。

貴『…だから、邪魔にならないよう落ち着くまでここで身を守っていようね』

そうなが子供の頭を撫でている後ろで、ゆっくり病田が近づいてくる。

子供達を見ているAの後ろをこっそり通り、環へと近づいた。

貴『皆、私が守るから。』

静かに近づいて、瓶の蓋を開けようと手をかけた、

時。

パシッ

貴『勿論、環の事もな。』

そう、Aが笑顔のまま病田の腕を掴んだ。

環に蟲を入れようとした事がバレた病田は顔を青くし、逆に入れられそうになっていた環は後ろに立っていた二人に目を丸くする。

先程の烈火への態度のように、自分も激怒し殴り掛かられるのではないかと身構えるが、Aは環に対し気をつけろと言いながら小瓶を取るだけで、病田にはなんのアクションも起こさなかった。

環「と、取り上げるだけでいいのか…？」

貴『大丈夫。多分アイツが持ってる蟲はコレだけだ。』

"誰か一人でも、燃えるのは嫌でしょう？"

それは言い換えれば彼女は一人しか燃やせない、と言うことで。

貴『(確かにそれがブラフの可能性はある…が…)』

病「か、返してくださいぃ！」

慌てて取り返そうとする病田に対しAは小瓶を病田が取り返せないように上に掲げる。

貴『(そら、慌てるだろうな。)』

だってこの蟲は、彼女にとって殉職するための自死用の蟲なんだから。

貴『(……まあ、そんな蟲を使おうとしたあたり、コイツは別に伝導者にゃ忠誠は誓ってないんだろうが。)』

病田が白装束に入ったのは伝導者を信仰しているからではない。

彼女が信仰しているのは、考えるまでもなくAだ。

Aを追いかけて、白装束に巻き込まれて。

死ななくてはいけなくて。

貴『…………』

そう考えると、例え自分に嫌がらせをしてきた相手でも胸が痛んだ。

森「うぅううりゃあ！！！」

ドンッと烈火が思いっきり地面へと叩きつけられる。

…どうやら、あちらの決着が付いたようだ。

Aは静かに彼女から奪った蟲を右ポケットにしまって、子供達を環へと預け森羅たちの方へと近づいて行った。