喜劇で悲劇の人形劇第五幕【炎炎ノ消防隊】 (ページ33)

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第232話揺れる煙草の火ページ33

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桜「そんな風に無理して頑張って、辛くないか？」

貴『………』

そりゃ、辛いですよ。

そう言って、Aはヘラリと笑う。

貴『でも、少しくらい無理しなきゃ、成長できない。

筋トレだってそうでしょう？

辛くても、それを乗り越えて。

そうしてやっと力を得られる。

だから…』

だから。

その先の言葉は続かない。

ただ静かに彼女の持つ煙草の煙がゆらゆらと上った。

貴『……ねえ、大隊長。

もし、私が焔ビトを作ってる組織の仲間だったとしたら、どうしますか？』

チリッと煙草の炎が音を立てる。

Aの質問に、今度は桜備が黙った。

どうして、そんな事。

そう尋ねてもAは何も言わない。

段々と短くなってきた煙草を咥えて、スーッと吸って、煙を蒸すだけ。

回答を急かすでもなく、ただ煙草を吸い続けるAに、桜備は仕方がなく答えた。

桜「助けるよ。」

貴『……どうして？』

桜「いたくてそんな組織いるわけじゃないだろ。」

そう答える桜備に、Aはどうだろねと呟いた。

もしかしたら、心からそれが正しいと思って生きていたかもだなんて嗤う彼女はどこか遠くを見つめていた。

貴『………嫌だなぁ…』

ぽそりと、Aが呟く。

それが何に対してなのかは分からない。

Aはそれを話さなかったし、桜備もそれを尋ねるのはなんだか躊躇われた。

貴『ねぇ大隊長。

真実ってそんなに大事ですか？

人体発火の解明は、今の幸せを放り投げてでもすることでしょうか。

今のままじゃどうして駄目なんですか？』

どうしても、彼等を追わなきゃ駄目でしょうか。

そうな風に立て続けに質問をされて、少し面を食らいつつも、桜備は一つずつ丁寧に答えた。

桜「大事だよ。少なくとも俺にとっては。

人体発火の謎が解けないと、人々はいつ幸せが突然奪われるか、不安に満ちた生活をしなきゃいけなくなる。

俺は、そんな今のままでいいとは思わない。

…その組織を追えば、人体発火を止めることができるかもしれない。

俺たちは、あいつ等を追わなきゃいけないんだ。」

貴『……特殊消防隊だから？』

桜「いや、それだけじゃなくて」

俺が、この世界を変えたいから。

そう答えた彼の目は、相変わらず真っ直ぐで。

希望に満ちていた。

貴『(……あぁ、羨ましい。)』

もう二度と、希望の掴めない薄汚れた手のひらを見つめる。

Aが憧れていたのは、彼女が本当に成りたかったのは、

両親や、桜備の様な───…