喜劇で悲劇の人形劇第四幕【炎炎ノ消防隊】 (ページ30)

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第179話タグには知ってるあの子の名ページ30

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桜備のテディベアは背中に、Aのテディベアにはポケットの内側に。

全く同じ色、形のタグが店名を示す。

"Scarlet goose"

桜「スカーレット・グース……緋色の雁、か？」

火「変わった名前ですね」

何故緋色の雁？と考えた瞬間、一人の人名が思い浮かぶ。

"緋"と"雁"が入った人名。

そんなもの、一つしか思い浮かばない。

桜/火「「緋雁か！！/ですね。」」

そう、今一番問題となっている少女、A緋雁本人の名字だ。

桜「ってことはあれか！これはAの家で作ったぬいぐるみなのか！」

火「自分の名字と同じ店だから贔屓してるという可能性はありますが、もしぬいぐるみ屋をやっているなら誕生日に自分の作ったぬいぐるみを娘に渡すのも何ら不思議はありませんね。

それに元々両親が作ってるものならば細工をしていても誰にもバレることはありませんし。」

確かになぁと桜備は納得したように自分のぬいぐるみを見つめる。

茶色の記事に焦げ茶色の瞳の、テディベアらしいテディベア。

そういうことならば、これはきっとAが生まれた時に両親が作ってくれた最初の贈り物なのだろう。

彼女が生まれた時から、ずっと、ずっと大切に飾られてきたテディベアだったのだろう。

いや、このテディベアだけではない。

きっと、あそこにおいてあったぬいぐるみ全部が両親からの大切な贈り物で、思い出の詰まった大切な遺品だったはずだ。

桜「(ああ、あの時、飾ってあったもの全部持ってこれれば良かったのに。)」

それでも、何故かAは最後のプレゼントだけを抱いて残りを桜備に預けていただろうと思うのだ。

本当ならば、両親の遺品を、思い出を、全部大切にしておきたかっただろうに。

それでもそう思ってしまうのは、

"私の手じゃ、2体は抱けないから。"

そう笑った彼女の柔らかい笑顔と、あまりにもボロボロで無残な姿をした彼女のテディベアのせいだろうか。

桜「……ラグ・ドール…」

ふと、ジョーカーがAをそう呼んだのを思い出す。

奴がAを"ぬいぐるみ"と名付けたのは、彼女がこのボロボロのテディベアの様に、傷つき、修繕すらされぬままボロボロになってしまっていると感じたからなんじゃないだろうか。

桜「(…なんて、考え過ぎか。)」

そもそも、殆どが推測にすぎないのだからと、桜備はその考えをかき消した。

あぁ、Aの過去の憶測も、この嫌な予感も。

全部ただの考えすぎならば良いのに。